読書

エスピノーザ編 スペイン民話集

岩波の世界の民話集シリーズのスペイン編。エスピノーザという学者が蒐集、編纂した280篇にものぼる「スペイン民話集」から82篇を抜粋した抄訳版。抄訳とはいえ400ページに迫るかなりのボリュームだ。岩波の民話シリーズは「イタリア(2巻)」「スペイン」「…

アゴタ・クリストフ 昨日

ハンガリー生まれで戦後亡命しフランス語で作品を書いたアゴタ・クリストフ。代表作「悪童日記」が有名だが読んだことがない。彼女の作品は初めて読んだ。 主人公トビアスは祖国の寒村で娼婦の息子として生まれるが、出生の秘密を知り母とその愛人を殺そうと…

オードリー・ニッフェネガー タイムトラベラーズ・ワイフ

古本屋で上下巻計400円で購入。2003年に刊行された作品で、タイムトラベルもののSFの設定をベースにした恋愛小説である。 主人公ヘンリーはタイムトラベラーだが、この作品では彼のこの能力は彼の先天的な障害として描かれている。タイムトラベルはランダム…

カズオ・イシグロ 日の名残り

日経英国人のノーベル賞作家カズオ・イシグロの長編小説。アンソニー・ホプキンス主演で映画化もされている。 英国の名家の屋敷ダーリントン・ホールの執事スティーブンスは短い旅に出る。美しい田園風景の道すがら、彼の胸中には様々な思い出がよぎる。 戦…

山尾悠子 山の人魚と虚ろの王

山尾悠子の新作。国書刊行会から先日発売され、その美しい装丁に度肝を抜かれながらも作品の短さを考えるとなかなかの高額書籍だが思い切って購入。 若い妻との新婚旅行に出た「私」は妻の伯母の訃報に触れ、夜の宮殿の観光を経て叔母の葬儀に向かうが...と…

須賀敦子 ユルスナールの靴

須賀敦子全集第3巻の「ユルスナールの靴」の部分を読了。 これはこれまでの作品とは少々趣が違う作品で、須賀さんが敬愛してやまないフランスの作家マルグリット・ユルスナールの人生と須賀さん自身の人生を重ね合わせたようにしてして書かれた9作(プラス「…

ケン・リュウ 紙の動物園

作者は中国系アメリカ人SF作家。これは新書版の「ハヤカワSFシリーズ」で出ていた同名の短編集から7作を収録した短編集。 いやこれは素晴らしい。特にアメリカ人男性の父のもとに身売り同然にして嫁いできた母への複雑な感情を描いた表題作と、1961年の台湾…

劉慈欣 三体

最近SFファンの間で何かと話題の中国SFの大ヒット作。古本屋で見かけてつい買ってしまったのだが読んで後悔している。だって続編買わないといけなくなっちゃった。 物理学者の父を文化大革命で惨殺され、人類に絶望した中国人エリート科学者・葉文潔(イエ・…

ジャック・ヴァンス 殺戮機械

ジャック・ヴァンスのSFミステリ「魔王子シリーズ」第2巻。今回のターゲットは「殺戮機械」の異名をとるココル・ヘックス。ある男性を奪回する任務でココル・ヘックスと近い人物と接近しながら逃してしまったガーセンは究理院の大物に誘拐された子供の救出を…

ボルヘス怪奇譚集

書店で見かけてつい買った。ボルヘスとビオイ・カサーレスが世界中の書物から選りすぐったちょっとヘンなお話を抜粋あるいは凝縮して集めた不思議な本。 これはすごい本だ。短いものは数行、一番長くて5ページくらいの古今東西の物語が詰め込まれている。出…

ジャンニ・ロダーリ 緑の髪のパオリーノ

イタリアの作家ロダーリの、おそらく子供向きに書かれたショートショート集。以前にも同じスタイルで「パパの電話を待ちながら」があったので第2弾といったところだろうか。 サラッと読めて教訓も含まれている、小さな子に読んで聞かせるにはちょうどいい感…

ジョン・テレン トラファルガル海戦

実家に置きっぱなしだった40年前の本を引っ張り出してきた。1805年、ナポレオンの英国侵攻作戦を阻止すべく、ネルソン提督麾下の英国艦隊が仏西連合艦隊を迎え撃ち、完膚なきまでに打ち破ったトラファルガル海戦についてその戦いに至るまでの経緯と海戦の詳…

エリック・シーガル ラブ・ストーリー

映画「ある愛の詩」の原作として有名な作品。高校生の時読んで感動して、同級生で友人の、後に漫画原作者として活躍した鍋島雅治くんに勧めたらこういうのは苦手とか言いながら読んでやはり感動したと言ってたな。その鍋島くんも一昨年の年末に亡くなってし…

ジェレミー・マーサー シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々

カナダでジャーナリストとして活躍していた著者が、ある事情からヨーロッパに逃亡せざるを得なくなり、無一文となってパリの超有名書店「シェイクスピア・アンド・カンパニー」にたどり着き、そこで過ごした1年間を描いた作品である。この店が先日観た「チャ…

須賀敦子 トリエステの坂道 / エッセイ1957~1992

須賀敦子全集第2巻の残り「トリエステの坂道」の部分と、余白に収められた1957年から92年までに書かれたエッセイをまとめたものを読んだ。このうち「トリエステの坂道」については10年ほど前に読んでいて再読である。 まず「トリエステ」については前回書い…

ジャック・ヴァンス 大いなる惑星

ジャック・ヴァンスの割合初期の作品で、日本では1966年にすでに邦訳が出ている。地球よりもかなり大きな惑星、その名も「大惑星(Big Planet)」を舞台に、遭難した宇宙船のクルーたちが地球政府の直轄地を目指して旅をするという、SF冒険小説だ。 この「大…

ディケンズ 二都物語

世界で通算二億部超のベストセラーだそうだが、今回初めて読んだ。私が読んだのは新潮文庫の加賀山拓朗氏による新訳版。 無実の罪で長年バスティーユに投獄されていたマネット医師は、娘のルーシーとともに銀行家ローリーの手で英国に移り住んだが、その後フ…

ジャック・ヴァンス 復讐の序章

アメリカのSF作家ジャック・ヴァンスの「魔王子シリーズ」全5巻の第1巻。大学時代に読んで面白かったのでもう一度読んでみたくなって古本で第3巻まで購入。 これは主人公カーズ・ガーセンが、故郷の町を破壊して両親の命を奪った5人の犯罪者に復讐していくと…

須賀敦子 ヴェネツィアの宿

須賀敦子全集第2巻の「ヴェネツィアの宿」の部分を読了。12作の連作エッセイで父との関係を中心に書いてある。 いつも通りの美しい文章と見事な構成力で素晴らしいが、父への複雑な想いからだろうか、普段語り手として一歩下がった視点から語ることの多いこ…

ディケンズ クリスマス・キャロル

言わずと知れたディケンズの超有名クリスマス・ストーリー。本屋さんで新訳の角川文庫を見かけて美しい装丁に惹かれて買った。映画やアニメで見た覚えがあるけど、実は読むのは初めて。 実業家で守銭奴のスクルージは、クリスマスの夜、昔の共同経営者で故人…

再読 スタニスワフ・レム 星からの帰還

ポーランドのSF作家スタニスワフ・レムの、有名な「ソラリス」とほぼ同時期に書かれた傑作。多分15年ぶりくらいに再読。 宇宙飛行士ハル・ブレッグはアルデバランへの10年の探査行から地球に帰還するが、地球上では127年が経過していた。右も左もわからない…

リュドミラ・ウリツカヤ ソーネチカ

ソビエト連邦時代を背景に、本の虫で容貌のぱっとしないソーネチカの一生を描いた作品。はっきり書いてはないがソーネチカは1920年前後の生まれのユダヤ系ロシア人だ。図書館に勤めていたある日、パリ帰りの反体制画家ロベルトと出会い結婚する。その後娘タ…

スティーブン・ウェッブ 広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由

最近話題の中国SF「三体」でも取り上げられた、なぜ宇宙人は見つからないのかという問題、いわゆる「フェルミのパラドックス」について考察した本。 もし宇宙に進んだ異星人がいた場合、それが光速を超えるようなオーバーテクノロジーを持たなくても数万年程…

グエン・ニヤット・アイン 幼い頃に戻る切符をください

Facebookの読書グループで翻訳者の伊藤宏美さんにご紹介頂いたベトナムの作家グエン・ニヤット・アイン「幼い頃に戻る切符をください」他一編を読んだ。 表題作はタイトル通りの、中年になって社会的成功も手に入れた男性が、子供時代の仲良し4人組の思い出…

梨木香歩 海うそ

200ページくらいの短い作品なのにその鬱蒼とした世界に迷い込んだようになってなかなか読み進めず、読むのに薄い本なのに2週間ほどかかってしまった。 しかし、最後の100ページくらいは一気に読んだ。この人の作品にはどれもびっしり植物が生えているイメー…

須賀敦子 コルシア書店の仲間たち

ミラノのコルシア・ディ・セルヴィ書店に集う人々と著者の交流を描いた作品。 須賀さんの作品の中でも評価の高い作品だが、それも納得の内容で、作者の青春の記と言っていいと思う。若い日に理想を追い求めて悩んだ経験のある人には胸に迫る作品だと思う。 …

ウェブスター あしながおじさん

実はこの作品、子供の頃から一度読みたかったのだが、何しろ生まれてこの方ずっと男の子だったもので、代表的な少女小説とされるこの作品にはなかなか手が出なかったのだった。まあ今も男子(というかおっさんorジジイ)なのだが、それはそれ。というわけで…

junaida みち

孫の2歳の誕生日が近いので書店で絵本を探してたらこれを見つけちゃって... 自分用に買ってしまった! タイトルと奥付以外全く字がない絵本で、本の片方、背表紙から見て右側からは男の子が、反対側の左側からは女の子がそれぞれ白い道をたどって歩き始める…

レオ・ペルッツ 第三の魔弾

オーストリアのユダヤ系作家ペルッツの処女作。 アステカ文明を滅ぼしたコンキスタドール、コルテスの前に立ちふさがったのはラインの暴れ伯の異名を取るグルムバッハ。母国ドイツを追われ流れ着いたアステカの地で恩義を受けたアステカ王に義理立てして、た…

ナタリア・ギンスブルグ ある家族の会話

戦前から戦後への激動の時代を生き抜いた作者と、頑固者の父と陽気な母、そして作者を含めて5人の兄弟たち家族の物語。 起こったメインのエピソードは時代を追って語られてはいるのだが、それから派生して作者が思いつくままに脱線しながら書いた風なところ…