ジャック・ヴァンス 殺戮機械

 ジャック・ヴァンスのSFミステリ「魔王子シリーズ」第2巻。今回のターゲットは「殺戮機械」の異名をとるココル・ヘックス。ある男性を奪回する任務でココル・ヘックスと近い人物と接近しながら逃してしまったガーセンは究理院の大物に誘拐された子供の救出を依頼される。「圏外」には誘拐された人物を金銭と引き換えに引き渡す「交換所」なる施設があり、子供の救出のためにそこを訪れたガーセンはココル・ヘックスが、100億SVUというとんでもない高額が設定されたアルース・イフゲニアという女性を手に入れようとしていることを知る。

ヴァンス節は今回も快調。いくつかの惑星が登場するがそれぞれ独特の風物が描きこまれてさすが。最後に登場する伝説の星サンバーは中世の「剣とファンタジー」っぽい世界で、もっと濃厚に描いてもよかった気はする。ミステリとしては悪役として登場してきた登場人物がほとんど全員同一人物という驚きの展開。でももしあの人があの人ならそんなに手をかける必要もなく、黙っててもアルースをものにできたような気もする。

中盤で交換所に放り込まれたガーセンが自分を助け出し、ついでにアルースを受けだしてしまう方法がすごい、というか呆れる。なんと偽札を作って支払ってしまうのだ。キャッシュレス決済が当たり前になった現代では全く考えられない方法だともいえるが、「圏外」のような無法地帯では逆に現金でないと信用されないのかもしれない。ほかにも昔のSFならではの古くさい部分がたくさんあるが、それはそれ。面白いことは間違いなし。ハヤカワさん復刊して。