須賀敦子 ユルスナールの靴

須賀敦子全集第3巻の「ユルスナールの靴」の部分を読了。

これはこれまでの作品とは少々趣が違う作品で、須賀さんが敬愛してやまないフランスの作家マルグリット・ユルスナールの人生と須賀さん自身の人生を重ね合わせたようにしてして書かれた9作(プラス「あとがき」)の連作エッセイである。そのせいかこれまでの作品に比べてやや硬質で読みにくい感はあると思う。

当然ながらユルスナールの作品がいくつか出てくる。「アレクシス」「ハドリアヌス帝の回想」「黒の過程」などなど。かつては邦訳があったのだけどそのどれもが今や入手困難。私も全く読んだことがない。なので須賀さんがいくらユルスナールの作品について語ってくれても実際に作品が読めないのでは須賀さんがユルスナールの作品のどんなところに惹かれ共感したのかよくわからない。自分のことを語る部分とユルスナールの行状を語る部分が交互に登場してくるような内容なのだが、前者のいつもながらの生き生きした文章に比べて、ユルスナールについて書いた部分はどうしても報告書みたいな硬さが残ってしまう。

というわけで新境地に挑戦した意欲作であることは認めるが、私は須賀さんの作品の良さは技巧を感じさせない自然体の文章だと思っているのだが、これは技巧が表に出てしまって須賀さんの作品としてはちょっと頭でっかちになってしまったような印象を受けた。