佐藤亜紀 スウィングしなけりゃ意味がない

第二次大戦下のドイツ、ハンブルク。青年エディは敵性音楽であるジャズに魅せられ、仲間を集めて闇パーティを開催したりしていたのだが、徐々に戦況は悪化、エディの周辺もどんどんきな臭くなっていく。ゲシュタポに捕まって収容所の地獄を見たりしながらも軍需産業の工場を経営している父を隠れ蓑に海賊版のレコードを制作・販売したりして比較的自由な青春を送っていたのだが、大規模な空襲がハンブルグを襲い、日常が崩壊する。

佐藤亜紀は以前ロシア革命下で無軌道な青春を送る青年を描いた「ミノタウロス」を読んだ。あれもなかなかすごい小説だったのだが、これはあれをさらに大きく上回る傑作だ。主要な登場人物があっさり退場したりもする作品だが、痛みや残酷な現実から目を逸らさず、しかしクールに描き出す作者の手腕は見事の一言。 戦時下のドイツは日本とよく似た世相で、登場人物を日本名にして「ゲシュタポ」を「特高」に言い換えれば全然日本の話でも通りそう(当時の日本にこれだけの反骨精神のあった若者たちがいたかどうかは別として)。これはほとんどがフィクションなのだが、当時のドイツにもこういう青春があったのだろうかと感銘を受けた。

ただどうしても読んでで、どこか「日本人が日本語で書いてるなあ」と思ってしまう部分がある。この感覚は何なのだろう。