ルーシャス・シェパード 竜のグリオールに絵を描いた男

その昔魔術師によって封印された体長1マイルにも達する竜のグリオール。その体は歴史の流れの中で土地の一部となり、その周辺にはいくつかの集落もでき多数の人間が暮らすようになった。しかし彼は麻痺した状態で生きていて、しばしばその邪悪な意図で人々を操るのだった。 というプロットの連作短編が4作収録された短篇集。

SFという要素はない。ジャンルから言えばファンタジーなのかな?作品の前提となる設定が竜ではあるけど、いずれも人間が主題の作品なのでファンタジーはどうもという人にも面白いと思う。

表題作「竜のグリオールに絵を描いた男」は何十年もかけてグリオールの体に絵を描くことで殺そうとする画家の話。画家は作業の途中である既婚女性と懇意になるが、彼女の夫に追いつめられ殺害してしまう。夫の遺体は誰も探せない竜の体の危険な部分に遺棄され、画家が罪に問われることはなかったが、女性は去ってしまう。ずっと後、老いた画家は竜の瞳の前である少女と出会う。なかなか詩的な美しい作品。でも後の作品とはちょっと矛盾してる気もする。

「鱗狩人の美しき娘」は強姦されそうになってつい殺してしまった男の家族の復讐から逃れて竜の中で暮らすことになった娘の話。竜の体に住み着いたおかしな人々と共同生活をしながら竜の体の中を探索する日々を過ごす羽目になる。竜の中で10年も暮らすとかすごいな。最後の方は竜を出て人間社会に戻るのだが、竜のエキスパートみたいになってるのがリアルだ。

「始祖の石」は竜を殺そうとして新興宗教みたいなものを主宰する男が、信者でこの男におもちゃにされていた娘の父親に殺された殺人事件の犯人を弁護することになった弁護士の話。父親はこの殺しはグリオールの意図だと主張する。弁護士は父親の無罪を証明すべく娘の許を訪ねるが…謎解きはちょっと無理があるような気もするが、これが一番面白かったかな。前作のヒロインがちょっとだけ登場する。

「嘘つきの館」は竜が変身した女と暮らすことになった逃亡殺人犯の男の話。主人公もとんでもない奴だし、竜の女も思考回路が人間と全く違うところが面白い。まあいろいろと冷やっこい話。

どれもとても面白かった。 連作としては最初の作品と後の作品の辻褄が合わないけど、まあそんなことはどうでも良いかな。 続き2冊あるらしい。すぐ読みたい。

それにしてもこれ竹書房文庫っていうのから出てるんだけど、この文庫すごく面白そうなのが多い。値段が高いのがアレだけど、ちょっと注目していこう。