原田マハ たゆたえども沈まず

なんだかんだ言ってもはじまってしまえば見たい競技多いオリンピック。入院中でヒマだし初日結構見た。3x3バスケめっちゃ面白い。そんな中だが、その合間の何時間かでサクサク読んだ入院中持ち込んだ最後の一冊。

評判の高さに違わず、史実と虚構を織り交ぜて緻密に構成されたすごい小説だ。それでいて全く難渋なところもなくリーダビリィティも高い。物語としては画家ゴッホとその弟テオと、同時代にパリの浮世絵ブームを支えた日本人画商林忠正という3人の実在の人物に、林の部下加納重吉という架空の人物を加えた4人を中心にゴッホ兄弟の苦悩と「新しい芸術」を模索する人々を描き出していくと言った内容。よく知られたゴッホの生涯に、実際には全く関わりがなかった林忠正を絡ませていく作者の手腕は見事の一言。

なのだが、ではなぜ林忠正なのか。伝記をそのまま小説にした方が良かったのではないのか?印象派というムーブメントの発生に日本美術が大きな役割を果たしたのはよく知られた事だが、だからどうしてもゴッホという革新的な画家の生涯の物語に日本人を絡ませたかったのだろうか?そこに何かすごく日本人らしいせせこましい島国根性を感じてしまうのは私だけだろうか。

さらには、Amazonのレビューなどを見るとこれを実話と思っている人がちらほら見かけられる。もちろんそれは読者の見識不足なだけなんだけど、それでいいのだろうか?そのあたりが読んでいる途中から気になって楽しめなかった。

もう一つ、テオと重吉が話の中心に据えられているので、画家フィンセントが少し遠い距離感で描かれているのも、芸術家の苦悩がストレートに伝わらずもどかしい。

全体には非常に巧みに書かれた見事な作品なのだが、あまりにも話を作りすぎている印象が強く、残念な読後感になった。日本人との関係などはもっと少なくしてテオの人生をそのまま小説にしても十分読み応えある作品になっただろうと思う。林とテオを繋ぐ役回りである重吉が日本人でなかった方がもう少し納得できたかもしれない。