アナトール・フランス ペンギンの島

アナトール・フランスは19世紀末から20世紀初頭に活躍したフランスの作家でノーベル文学賞受賞作家。「舞姫タイス」「シルヴェストル・ボナールの罪」あたりが有名。
この「ペンギンの島」はフランスの歴史を、ペンギンが人間に変身した架空の国「ペンギン国」の歴史としてカリカチュア的に書いた作品。この作家は反カトリックペシミストという文脈で語られるが、この作品はその真骨頂かもしれない。フランス史と並行して読んでいくととても興味深い。「序言」から「第8の書」までの九章でフランス史を描き直す。

第1から第3の書までは神話・伝説の時代。老聖人、聖マエールが誤ってペンギンに洗礼を施してしまい、困った主(キリスト)らは、ペンギンを人間に変えてしまう。その後ペンギン国には王族が現れるが、彼らが王族になる経緯が滑稽で面白い。意外と世界の神話なんて真実はこんなものかもしれない。

続く第4から第7までの書はフランス革命からドレフュス事件まで、そして執筆当時のフランスを描く。もちろん捻りが効いててすごいが、フランス近代史をある程度把握して読みたい。フランス革命とナポレオンは割と簡単な記述。「第7の書」ラストで、ペンギン国(フランス)とねずみいるか(マルスワン)国(明らかにドイツ)が全面衝突してしまう。第一次大戦を予言してしまっているのが恐ろしい。

さらにラストの「第8の書」にはゾッとする。これ1908年に出た作品。第一次大戦すらまだ起こってなかった時に、テロと大量破壊兵器によって滅びを迎える未来を描くなんて...

これは強烈な作品だった。それぞれのエピソードは滑稽だが、この作家らしい宗教や政治に対する批判精神に溢れたもので、レムが「現場検証」などの作品で描いた異星の文明の歴史とも共通点があるようにさえ思う。

ちょっと入院中ヤワな作品ばかり(レムは別だけど)読んでたので、3日かかったけど、これは久々重量感ある読書だった。
やっぱ私はこういう海外文学が好きだな。