カズオ・イシグロ 日の名残り

日経英国人のノーベル賞作家カズオ・イシグロの長編小説。アンソニー・ホプキンス主演で映画化もされている。

英国の名家の屋敷ダーリントン・ホールの執事スティーブンスは短い旅に出る。美しい田園風景の道すがら、彼の胸中には様々な思い出がよぎる。 戦前から戦後へと至る時代の変遷を主人のダーリントン卿に従って見つめてきた執事。やはり執事だった父や女中頭のミス・ケントンとの関係を織り込んで完全な一人称で、かなりスローなテンポで描いている。

そのきめ細かい描写が見事で、私たち日本人にはあまりなじみのない世界のことが書かれた作品である上に、上にも書いたようにかなりスローなテンポで物語が運ばれるにもかかわらず引き込まれてぐんぐん読み進められる。

この作家の作品でよく言われることは、語り手が自分に都合の悪い事は書いてない、いわゆる「信頼のおけない語り手」であるという事。この作品でも父やミス・ケントンとの関係やダーリントン卿のことなど、何が起こったのか、語り手自身が何を感じどう思ったのか明らかに意識的に書いてない部分がいくらもあり、そのせいか何かモヤモヤしたまま読み進めることになる。

そうしてラストで語り手は夕日を見つめながら自分の人生で何一つ「選ばなかった」ことに思い至り滂沱の涙を流す。執事スティーブンスが自らの心情を吐露するのはここだけだと言ってもいい。そこはちょっと感動しちゃうんだけど、その直後、新しい主人のためにジョークの練習をしようと決意して終わる。

全く英国執事ってやつは、食えない。