ジャック・ヴァンス 愛の宮殿

ジャック・ヴァンスのSFミステリ「魔王子シリーズ」第3巻。今回のターゲットは美と官能を愛する偏執狂的犯罪者ヴィオーレ・ファルーシ。彼の名前を新聞記事で見つけたガーセンは、彼が若いころに起こした誘拐事件の当事者から彼が初めて犯したその事件の顛末を聞く。ジャーナリストとしてファルーシの故郷である地球を訪ねたガーセンはファルーシの友人だったという詩人ナヴァースと謎の美少女ザン・ズーとともにファルーシの拠点「愛の宮殿」を訪ねることになる。

この作品に登場するのは毒の惑星サルコヴィー、シリーズ初登場の地球、そして「愛の宮殿」が建設された謎の惑星(ソグディアン)というのが主だったところで、相変わらずのヴァンス節で各惑星の風物が見事に描きこまれている。中盤の未来の地球も興味深いが、後半の惑星ソグディアンでの「愛の宮殿」への旅が見事。旅の道連れがぐっと増え、しかもその中の三人の誰かがヴィオーレ・ファルーシだというのは第1作「復讐の序章」とちょっと似たシチュエーションかも。

作者本人もかなりこの作品を気に入ってたらしいのだが、それも納得。大変面白くどんどん読めてしまう。

しかしここで疑問が。ヴィオーレ・ファルーシはアトル・マラゲートやココル・ヘックスとはかなり性格の異なる犯罪者で、少年時代の失恋を引きずって犯罪者になった彼は決して粗暴な犯罪者ではないのに、なぜ彼がマウント・プレザントの虐殺などという暴挙に参加したのだろうか。そう言えばそもそもマウント・プレザントの事件そのものの詳細も語られていない。シリーズ最後にはその辺も語られるのかな。