ジャック・ヴァンス 「冒険の惑星」四部作

ジャック・ヴァンスの「冒険の惑星」4部作を読んだ。

これは原題では「Planet of Adventure」という、ヴァンスの作品としては珍しい書下ろしシリーズとして1968年から1970年にかけて出版されたもので、日本では主人公の名をとって「アダム・リース」シリーズとも呼ばれている。原題ではそれぞれの作品に「City of The Chasch」「Servents of the Wankh」「The Dirdir」「The Pnume」というタイトルがついている。日本では創元SF文庫から「冒険の惑星I~IV」のタイトルで出て、その後それぞれに「偵察艇不時着!」「キャス王の陰謀」「ガラスの箱を打ち砕け!」「プニュームの地下迷宮」という邦題がついて再発されていてとても紛らわしい事になっている。

ヴァンスの作品なら当然ともいえるのかもしれないが、とにかくこのチャイという惑星に住む人々の文化や風習などが見事に描かれている事がすごい。たくさんの星を行ったり来たりした「魔王子」シリーズよりもこちらは一つの惑星を4作かけて描いている分その濃密さは強烈。チャイにはチャッシュ、ワンク、ディルディル、プニュームというもともと異星人の種族と、ディルディルによって何千年も前に地球から連れてこられてこの星に同化した人々がいるのだが、もともと地球人の人々もそれぞれの土地で異星人たちの影響を受けながら独自の文化を形作っている。訳語で「ディルディル人」などと語尾に「人」がつくのは人間で、「ディルディル人」なら異星人であるディルディルに何世代にもわたって使役され、そのためディルディルの価値観を持った人間ということになる。

初めのほうに登場する紋章人という部族は紋章を受け継いだり奪ったりしてそれがアイデンティティになるし、ワンクという種族は音楽で会話をする。プニュームの巨大な地下の迷宮都市に住む無気力な人々など、それぞれの部族の慣習や風物が見事に描かれていて極めてリアル。地名も相当数登場してきて、巻頭に地図が掲げてあるがそれに書かれていない地名も多数登場する。詳しい地図ないのかな。そんな世界で主人公アダム・リースは宇宙船を再建して地球へ帰るために、紋章人トラズと脱走ディルディル人アナコと三人でチャイ中をさまようことになる。

第4巻ではプニューム人の女の子ザップ210と一緒に旅をすることになるが、最初は無気力で味気ない女の子だった彼女が、それまで見たこともなかった外の世界に触れて徐々に魅力的になっていくのがよく描きこまれている。その一方で第1巻でヒロインと思われたイリン・イランを第2巻の中ほどであっさり退場させたりと薄情ヴァンスぶりも冴えわたる。

ラストも完成した宇宙船でチャイを去るところであっさり終わり。

やっぱりヴァンス、外れなし。これにしても「魔王子」にしてもNetflixあたりで連続ドラマにしたら絶対面白いと思うんだけどな。