ケン・リュウ もののあはれ

先日紹介した「紙の動物園」に引き続き中国系米国人SF作家ケン・リュウの短編集。8作収録。

表題作はわりと普通のSF。主人公ヒロトは久留米出身の青年で、地球の滅亡にあたって両親のコネで脱出船に乗り込むことができた。だが、船は危機に見舞われ、ヒロトは命がけで船を救おうとする、というまあありがちなSF。結構ナイーブな作品なのでちょっと残念に思ったのだが、他はテッド・チャンぽいクールな作品が多い。

「選抜宇宙種族の本づくり習性」はいろんな宇宙人がどんなふうに本を書くかを解説した作品で面白いが、こういうのを書かせたらレムのほうが何段も上手だと思う。

「どこかまったく別な場所でトナカイの大群が」はサイバー・パンク的な作品で、人類は既にデータ化されて巨大なメモリーに蓄えられていて、その中でメモリー化された後の世代の少女が、もとは肉体を持っていた母とともに現実の世界を見て回る、ただそれだけの作品だが、何とも言えない読後感が残る。「円弧」は不老不死の肉体を手に入れてしまった女性の人生を描いた作品で、この作品集中一番印象に残った作品なのだが、これも人類の長命化が進めば普通に起こりそうな光景が描かれ興味深い。この二つの作品のアイディアは300年の宇宙の旅をする女性を描いた「波」に受け継がれていて、こちらの作品では「長命化」と「データ化」の両方が表れてくる。人類が宇宙に進出するのならやっぱりこういうことになるんだろうなあと思う。

「1ビットのエラー」は天使の降臨を見た女性を愛した男の話で、やはりテッド・チャンの作品を思わせる。

ラストの「良い狩りを」は「聊斎志異」を思わせるような中国っぽい幻想譚とスチームパンクが融合した作品。日本でのアンケートでは「紙の動物園」収録の7作を含めた15作の中で一番人気だということだが、良い作品だとは思うがあまりにもハリウッド的で私の好みではないかな。ちなみにこれはNetflixの「ラブ・デス&ロボット」というアニメシリーズの中の一作としてアニメ化されている。

というわけで全体にはとても面白かった。テッド・チャンのクールさにアジアっぽいウエットさがうまく溶け合っててとてもいい感じだと思う。