乙野四方字 僕が愛したすべての君へ

これはまあパラレルワールド(今はマルチバースって言うのかな)SFなんだけど、姉妹編の「君を愛したひとりの僕へ」と2冊で1セットのお話。 ブックオフで一冊110円で購入、2日で2冊読んでしまった。一応別々の記事で取り上げることにする。

パラレルワールドが実在することが証明された世界。大分市を舞台に、両親の離婚の時に父と母のどちらの親についていくかで大きく運命が変わった暦という男の話。こちらの「僕が…」のほうでは、母と暮らすことを選択、8歳の時、祖父が亡くなった日に突然祖父が死なず自分が父と暮らしている世界に行って戻ってくるという経験をする。その後成長して高校の同級生和音と結婚して幸せに暮らしていたが、息子が通り魔に襲われるという事件が発生。事なきを得たのだがその後和音の様子がおかしい。実は息子が殺害されてしまった世界線の和音と入れ替わってしまっていた。

そういうエピソードを絡めながら主人公暦がどんな世界であれ和音を愛することを決意するという流れの作品で、正直これだけ読むとナイーブな恋愛SFという印象だけの作品なのだが、冒頭とラストで語られる72歳で余命宣告を受けた暦がリマインダーにあった覚えのない予定に従って出かけた町の交差点でのエピソードが姉妹作「君を…」に繋がって行く。

こちらの作品では、この世界でのパラレルワールドを説明する理論「虚質物理学」についてかなりあっさり触れられているので、SFとしてより60年以上にわたるラブストーリーとしての要素が強い。

というわけでやはりもう一作読まないと全く真価がわからない作品だと思う。