ダシール・ハメット  チューリップ

ハードボイルドの創始者ハメットの未完の中編小説「チューリップ」をメインに短編を集めた作品集。古本屋で安かったので購入して読んでみた。
 
表題作は花のチューリップとは全く関係ない話で、著者自身の身辺雑記のような小説である。表題のチューリップとは、ハメット自身と思しき主人公の作家と会話を交わす友人の名前である。友人とはいえこれもハメットの分身のようなもので、この二人が禅問答のような会話を繰り広げるだけの全く面白くもなんともない、小説として読む価値が全く感じられない駄文である。 ハメットの私生活に興味があるような、熱心なハメット研究者にはたまらん作品なのだろうが、一般読者にとっては全くつまらない、もはや小説としての体すらなしてすらいない作品だ。あまりにもつまらなくて、100ページくらいの短い作品だが読んでて非常に長く感じた。
 
それとは正反対に、後半に収められた短編10作はどの作品もめちゃくちゃ面白い。数ページのかなり短い作品から結構長い作品まで様々な作品が収められていて、どれも初めて読む作品だったが、「赤い収穫」などでおなじみの「コンチネンタル・オプ」が活躍するやや長めの「裏切りの迷路」はある医師が死亡し、婦人が殺害の疑いをかけられる。オプは夫人の疑いを晴らすべく動き出し、医師の元妻とつながりのある男が事件のカギを握っていることを突き止めるが…という作品。短編なのに二重に張られた謎が見事に集約する傑作。
「焦げた顔」はある富豪の娘姉妹が失踪、これを探すうちに意外な事実に突き当たる。一緒に行動する刑事のエピソードが、それだけで小説になりそう。その他の作品もみな面白い。オプものではないが、ラストに置かれた掌編「闇にまぎれて」も小説ならではのギミックでラストに驚かされる。
 
というわけで、やっぱりハメットは犯罪物でないと、と再確認した一冊だった。