ケン・リュウ 紙の動物園

作者は中国系アメリカ人SF作家。これは新書版の「ハヤカワSFシリーズ」で出ていた同名の短編集から7作を収録した短編集。

いやこれは素晴らしい。特にアメリカ人男性の父のもとに身売り同然にして嫁いできた母への複雑な感情を描いた表題作と、1961年の台湾を舞台にアメリカ人少女と現地の男性とその孫との交流を描く「文字占い師」は秀逸。他の作品もどれもレベルが高い。中国からの移民を審査する審査官の話「月へ」、紐を結んで文字を書く特殊な文化を持つ村人が現代社会に直面する「結縄」、AIの開発がテーマで、テッド・チャンっぽい「愛のアルゴリズム」などどれも読みごたえがある。どの作品も中国という自分のルーツをしっかり正視したうえで文学的に高いレベルに昇華していると思う。オビに「いまいちばん泣ける小説」という謳い文句があるが、泣ける小説というようなレベルの低いものではなく、感動と同時にアイデンティティとか人種的偏見とかの近代的な問題を含む様々なことを考えさせられる作品だと思う。

もともとの作品集からこちらはSF色の弱いものをセレクトしてあるらしい。もう一冊「もののあはれ」というのが出ていて、そっちがSF色の強いものを集めているらしい。こちらもぜひ読んでみたい。

ここに収められた作品はどれも純文学の範囲内の作品で、SFの要素はほとんど感じない。ハヤカワの青背なのでSFに興味ない普通の本好きの人は見逃してるのでは?そういう人にぜひ読んでほしい。

又吉のオビが個人的にはアレだけど笑