小川一水 ツインスター・サイクロン・ランナウェイ

百合SFアンソロジー「アステリズムに花束を」に収められていた同名短編の長編化作品。木星型惑星を舞台に、その惑星のガスの上を泳ぐ鉱物の「魚」を採る漁師たちがいくつかの士族を形成して、その伝統が300年続いている。そんな因習で縛られた社会で女同士でペアを組んで漁を始めたテラとダイだったが…というプロットはそのままで、300年前の話を盛り込んで膨らませている。

閉鎖的な社会が300年続いたことで男尊女卑というか性差のはっきりした社会が出来上がっていて、それを打破しようという方向の話の方向性は面白いし、昏魚(ベッシュ)の設定などよく考えてありさすが。この作家以前読んだ「老ヴォールの惑星」ではホットジュピターに住む生物を描いていたが、昏魚はそこからの派生なのだろうか。

短編と比較すると、300年前の昏魚が初めて人類の前に姿を現すエピソードとその謎解き、ダイの奪還隊の出現、それに二人がイチャイチャするシーンが追加されている。確かにどれも短編に欠けていた要素だとは思うのだが、特に後ろの二つは短編をすでに読んだ人にはオマケに思えそう。またヒロイン二人以外は数人しか登場人物がおらず、作品全体で二人の関係が作品の大きな割合を占めるのだが、おっとりしたイメージのテラとかなり気が強いはずのダイのヒロイン二人のセリフのトーンが似通っていて、会話だけで進行するシーンなど場面によっては混乱することがあり、さらにあまりにも今風の話し方で何千年も未来の話という感じがしない。また300年もかなり厳しい環境で漁をやってきた人々なのだから社会全体がもっと閉鎖的・抑圧的でもおかしくないと思う。そのへんがちょっと気になったが、全体にはとても面白く楽しんで読んだ。