ジャック・ヴァンス 大いなる惑星

ジャック・ヴァンスの割合初期の作品で、日本では1966年にすでに邦訳が出ている。地球よりもかなり大きな惑星、その名も「大惑星(Big Planet)」を舞台に、遭難した宇宙船のクルーたちが地球政府の直轄地を目指して旅をするという、SF冒険小説だ。

この「大惑星」に住む人々は宇宙人ではなく500年前に入植した地球人たちの末裔である。したがって登場人物はすべてもとをただせば地球人なのだが、長年異星に住んで独自の文化を発展させている。こういうことを書かせるとヴァンスは一流だ。ここでも様々な地方の人々が登場するが、それぞれが個性的な文化を持っていて、その描写は克明かつよく練られていて流石だ。道中仲間が次から次に、それもかなり唐突に命を落とす酷薄さに加えて、誰かが敵対勢力のスパイであるというのもありがちだがうまい仕掛けだ。ただし、この小説はストーリー性、キャラクター性がやや弱く、結局「大惑星」の風物を描くことで終わってしまった感が強い。SF的な大仕掛けか、スパイが誰かなどの謎解きといったギミックが欲しかった。

この作品の世界も、明記はされていないが「魔王子シリーズ」のオイクメーニと同様の星間国家が舞台で、「魔王子シリーズ」での「圏外」と同じ考え方も出てくるので、これは同じ世界と考えても不都合はなさそうだ。ヴァンスの作品って「復讐の序章」で「月の蛾」の舞台の星について語られたり、結構横のつながりがある場合が多いようなので、どれかの作品で大惑星に言及したりしてはいないのだろうか。そういえば大惑星は産出量が少なくて金属が貴重品という設定も、石灰の産出量が少ないことが話の根幹にあった「フィルクスの陶匠」を連想させるようにも思った。