ジャック・ヴァンス 復讐の序章

アメリカのSF作家ジャック・ヴァンスの「魔王子シリーズ」全5巻の第1巻。大学時代に読んで面白かったのでもう一度読んでみたくなって古本で第3巻まで購入。

これは主人公カーズ・ガーセンが、故郷の町を破壊して両親の命を奪った5人の犯罪者に復讐していくというミステリ要素もあるSFアクションもの。壮大な星間国家オイクメーニを舞台に、この作家ならではの各惑星の風物を盛り込んだなかでガーセンが敵を追い詰めていく。第1巻の標的は「災厄の」アトル・マラゲート。

オイクメーニの統治の及ばない星域「圏外」のある惑星でガーセンが知り合った探星士ティーハルトは、あるとても美しく価値が高いであろう星を発見したのだが、その星を巡ってマラゲート一派とトラブルになり殺害されてしまう。ティーハルトが見つけた星の情報が書かれたモニターを手に入れたガーセンは、このモニターを解読できるキーを持っているアヴェンテ沿海州立大学の高級職員3人のうち誰かがマラゲートだという事を突き止めるのだが、ガーセンと仲良くなった大学職員の女性パリス・アトロードがマラゲート一味に拉致されてしまう…。

各章の冒頭にオイクメーニの星々について解説された架空の書籍やインタビューからの引用などを配して、読み進むうちにこの世界の結構が見えてくる仕掛けになっていて、それが物語と一体になって世界がどんどん深まっていくのが何と言っても面白い。壮大な惑星系を持つリゲル星系の天文学的記述などSFファンならワクワクするところ(本当のところはリゲルは三重星で、そんな26個の惑星などはなさそうだが)。

ミステリとしては正直誰がマラゲートかという謎解きはそんなに難しいものではない。というか彼がスター・キングならば、スター・キングがどんな連中かわかっているガーセンにとってこの謎解きは自明のものだったはず。そういう点でミステリとしてはやや薄いし、昔のSFらしくギミックも単純ではあるのだが、敵の一味のキャラクターもみんなそれぞれ個性的だし、相当古い作品だがそんなに古さは感じさせず今読んでも十分面白い。

ところでこれ全5巻なんだけど、第4巻以降がかなり入手困難。第5巻に至ってはネットの古本屋さんでも全く見当たらない。レムやストルガツキーよりも古本が出回ってないってちょっと驚き。面白い事は折り紙付きなんだから、どこか復刊してくれないかな。