スタートレック・ディスカバリー シーズン3

NETFLIXで配信されているスター・トレックのドラマシリーズ。第3シーズンが昨日1月8日の配信分で最終回を迎えた。

スタートレックディスカバリー」(DIS)は、オリジナルシリーズであるカーク船長が主人公の「宇宙大作戦」(TOS)の10年前という設定で第1シーズン、第2シーズンが制作された。宇宙を縦横に行き来できる「胞子ドライブ」というオーバースペックを持つ宇宙船ディスカバリーと、バルカン育ちでスポックの義理の姉でもある女性士官マイケル・バーナムを主役にした作品なのだが、第1シーズンは連邦とクリンゴンの大規模な戦争に発展し、これまでのシリーズの設定と矛盾していた事や、クリンゴンの描き方が従来と全く違うなど物議を醸した。私も正直第1シーズンはあまり好きではなかった。

第2シーズンでは宇宙で発生した謎の信号と赤い天使を巡って、パイク船長やスポックといった従来シリーズでもおなじみのメンバーも登場して俄然スタートレックらしく面白くなった。その最終盤でディスカバリーは930年後の世界へタイムスリップしてしまう。その未来世界でのディスカバリーの活躍を描いたのがこの第3シーズン、というわけである。

言うまでもなく、今シーズンに描かれた世界は従来のシリーズで描かれた中でも最も遠い未来に当たる。多分「新スタートレック」(TNG)で27世紀かなんかが垣間見える話があったと思うのだが、今回はそれよりもずっと未来の32世紀の話だ。ディスカバリーとマイケルがやってきたのは120年ほど前に「大火」と呼ばれる謎の現象で高速ワープに必要な資源であるダイリチウムがほとんど失われ、その結果連邦は衰退、多数の星系が連邦を離脱して混沌とした世界であった。オリオン人を中心とする無法者集団「エメラルド・チェーン」との対立の中、「大火」原因を探すというストーリー。これまでのシーズンに比べてぐっとスタートレックらしい内容になった。これまで同様トレッキーならおおっと思うような仕掛けにも事欠かない。第3シーズンに至ると中心人物であるマイケルや船長になったケルピアン人サルーたち以外の端役のクルーたちもキャラが立ってきて、我々視聴者にも親近感が感じられるようになってきて非常に楽しく観れた。

私が一番気になったのは第12話でのエメラルド・チェーンの首領オサイラーのセリフ。「すでに連邦内で資本主義が起こっていることを認めろ」というものだ。要するに現状の惑星連邦内部では資本主義など論外なのだと言っているに等しい。彼らが資本主義と主張するエメラルド・チェーンの体制は奴隷制と搾取。しかし一部の者だけが豊かでほかの者は貧しいというのが資本主義の実態なのだ。万人が平等の社会主義国家である連邦とは正反対のシステムだ。私は宇宙で文明を築くには資本主義などありえないと思っている。無駄が多い資本主義のシステムではカルダシェフ・スケールの第1段階を突破できないのだ。だが、連邦が良心的な社会主義であればあるほど、恣意的に資本を投入できる独裁的資本主義であるエメラルド・チェーンのほうが軍事的には優位になる。世界のバランスって難しいな。

第3シーズンは各エピソードにバルカンとロミュランの問題や並行宇宙、「ヴォイジャー」でよく見られたホロデッキものをエクスパンドしたものまでスタートレックらしい仕掛けが施されて大変面白かった。中盤で船長であるサルーの「発進」の決め台詞を考えて「Execute」と「Carry on」のどちらにするか迷うシーンがあって笑えた。ちなみにピカードは「Engage」と「Make it so」を使い分けていたし、第2シーズンのパイクは「Hit It」だった。ラストでついにディスカバリー船長に就任したマイケルは「Let’s Fly」。そういう細かい事を考えているのも楽しい。

第4シーズンも制作に入っているそうで楽しみ。ちなみに第2シーズンのパイクやスポックが主役の新シリーズ「Star Trek: Strange New Worlds」も今年の公開予定。そちらも楽しみだ。