ディケンズ 二都物語

世界で通算二億部超のベストセラーだそうだが、今回初めて読んだ。私が読んだのは新潮文庫の加賀山拓朗氏による新訳版。

無実の罪で長年バスティーユに投獄されていたマネット医師は、娘のルーシーとともに銀行家ローリーの手で英国に移り住んだが、その後フランスでは革命の嵐が巻き起こる。ルーシーの夫でフランスの亡命貴族チャールズは、かつての使用人が有罪にされそうとの知らせを受けてフランスへ渡るが、革命の中核を担うドファルジュ夫人は彼を仇敵として狙っていた…

いやすごい。映画を見ているみたいに映像的。登場人物がかなり多いこともあって、前半はちょっと物語の運びが重いようにも思うが、最初はそれぞれの登場人物のエピソードがバラバラに語られているように見えながらラストに向かってぴったり収斂していくのは見事。フランス革命って日本ではどうしても「ベルばら」のイメージで語られちゃうけど、市井のレベルではこれほど悲惨だったというのが、アナトール・フランスの「神々は渇く」同様に強烈に描かれている。「神々は渇く」はかなり固い小説だったが、こちらはそこに一般の読者にも読みやすいであろう「チャールズ一家vsドファルジュ夫妻」の対立を盛り込んであるから、格調は下がるが小説としてすごく読みやすい。ネタバレを避けて詳しくは書かないが、特にラスト200ページくらいは怒涛の展開で息もつかせない。それまではただの家政婦だったミス・プロスが最後に大活躍したり、最後の方で登場する20歳のお針子がとても印象的。ただ、全体に誰が主役なのかイマイチはっきりしないのが唯一の弱点。最初からシドニー・カートンを主役に据えておけばもっとピントが定まった作品になったような気もするが、それは些末な事。

いやすごいもん読んだ。二億部は伊達じゃない。