劉慈欣 三体

最近SFファンの間で何かと話題の中国SFの大ヒット作。古本屋で見かけてつい買ってしまったのだが読んで後悔している。だって続編買わないといけなくなっちゃった。

物理学者の父を文化大革命で惨殺され、人類に絶望した中国人エリート科学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)。失意の日々を過ごす彼女は、ある日、巨大パラボラアンテナを備える謎めいた軍事基地にスカウトされる。そこでは、人類の運命を左右するかもしれないプロジェクトが、極秘裏に進行していた。数十年後。ナノテク素材の研究者・汪(ワン)ミャオは、ある会議に招集され、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられる。自殺者の中には葉文潔の娘、楊冬(ヤン・ドン)もいた…

というとっかかりで始まるこの作品はファースト・コンタクトもの、サイバー・パンクもの、ディザスターもの、宇宙戦争物の要素も含んで、最近のSFというと変化球だらけの中で逆に異彩を放つ王道ぶり。あまりに面白くてあっという間に読んでしまった。

面白いのは認めるが、いくつも疑問がある。作品自体としては登場人物が誰もかれもあまりにテンプレで、感情移入できる人物がいない点と、文潔の決断(「返信」の件も「殺人」の件も)があまりにも軽率すぎるように思える点がまず気になるが、SFファンというより宇宙ファンの私としては、まずアルファ・ケンタウリについての記述が事実と違う点が気になった。

アルファ・ケンタウリは確かに三重星だが、太陽よりも少し大きなAと太陽より少し小さいBが80年弱の周期で10~40auの距離で回りあっている。もう一つのCはプロキシマ・ケンタウリと呼ばれる赤色矮星で、AとBから0.2光年(15000au)も離れて公転している。アルファ・ケンタウリCの、AやBに対する影響はかなり小さい。連星系のただなかの惑星は不安定になるだろうし、生命を育むには酷な環境になるだろうとは思われるが、作中で語られるような三体問題にはならないのだ。さらにある時は惑星が分裂してしまうような現象が起こるが、その後9000万年で文明が復活したとあるが、惑星が分裂するような天変地異が起こったらその惑星は完全に不毛の地になるはずで、1億年もたたないうちに文明が戻るとかありえない。それどころか生命圏すら戻らないだろう。

太陽が電波を増幅する話も、そんなことあるかい!という感じだ。そういうめちゃくちゃを前提に話を進めるあたりが日本人やアメリカ人にはとてもできっこない。三千万人を整列させて作った人間コンピューターのくだりなんかも、さすが中国人の発想だと感心した。

まあでもとにかく単純に面白い。21世紀にこんな単純なSFがあるなんて、とある意味感動しながら読んだ。続き読まなきゃ。続編「Ⅱ・黒暗森林」は上下巻で発売中。2冊買ったら4000円だ。「Ⅲ」は今年発売の予定だって。