ナタリア・ギンスブルグ ある家族の会話

戦前から戦後への激動の時代を生き抜いた作者と、頑固者の父と陽気な母、そして作者を含めて5人の兄弟たち家族の物語。
起こったメインのエピソードは時代を追って語られてはいるのだが、それから派生して作者が思いつくままに脱線しながら書いた風なところもあるし、何しろ登場人物が多くて読みにくい面もあると思う。メモを取りながら読んだ方がわかりやすいかも。
ちなみに登場人物には作家のパヴェ―ゼ、のちにタイプライター製造で世界的企業になるオリベッティ社の御曹司(のちの社長)アドリアーノ等の名前もあるし、友人たちが興す出版社は後のイタリア大手エイナウディ社である。そんな近代イタリアの礎となった人々の若き日は、これほどに悪意に満ちた世界と向き合わなければならなかったのだ。実際この作品中でもたくさんの人が亡くなる。作者(=語り手)の夫が逮捕され獄死したという悲劇や、兄の危険なパリ脱出行、父のベルギー脱出行とか家族にはかなり緊迫した場面もあったろうが、それを決して悲壮にならずにユーモアさえ感じさせながら、題名通り家族の会話を中心にしてすいすいと描いていく。
単純にイタリアの頑固親父物語として読んでもいいし、こんな大変な時代を笑って(でもないのだが)過ごしたイタリア人たちのバイタリティに感心しながら読んでもいい。日本でこんな風に戦争の時代を語る作品ってあまりないし、あの時代を描くとなにやら作家の思想がにじみ出る作品が多いと思う。
翻訳の須賀敦子さんがこれまた素晴らしい。各所に現れる詩の翻訳がきちんと韻を踏んだ日本語になっていて見事。彼女の作品翻訳も含めて全部読みたい。