エリック・シーガル ラブ・ストーリー

映画「ある愛の詩」の原作として有名な作品。高校生の時読んで感動して、同級生で友人の、後に漫画原作者として活躍した鍋島雅治くんに勧めたらこういうのは苦手とか言いながら読んでやはり感動したと言ってたな。その鍋島くんも一昨年の年末に亡くなってしまった。今回古本屋さんで見かけて思わず手に取って40年ぶりくらいに読んだ。

当時としては驚くほどセンチメンタルでナイーヴな作品で、しばらく前に日本でも流行った純愛小説(ケータイ小説)のハシリといえるだろう。今読むとあまりにも短くて物足りないが、青春の痛みを瑞々しく描いた佳作だと思う。1980年頃のアメリカの風物がしっかり描きこまれノスタルジーを感じさせる。ウィットに富むヒロイン、ジェニファがとても魅力的で、何もかもうまくいっていた幸福の絶頂から一転してのラストは胸が苦しくなる。この作品は凡百の恋愛小説とは違い、主人公オリバーとジェニファの間柄と並行して、それぞれの親との関り、特にオリバーと父親の反目がテーマになっていて親子愛の物語でもある。「ラブ・ストーリー」というタイトルはそういう意味でもあると思う。

さてこの作品を語るうえで外せないのはジェニファのセリフ「愛とは決して後悔しないこと」。この原文は「Love means never having to say you're sorry」。「後悔」は「sorry」で、謝る、残念といった風にもとれる。よくよく考えてみると、このセリフは言い争いの後オリバーが「ごめん」というのに対して、いつも機転のきくセリフを口にするジェニファが、いつもの機転を働かせて答えたセリフなのだ。だからそこでのニュアンスとしては「愛とは決してごめんって言わないってことよ」が一番近い。というかここでジェニファが「愛とは決して後悔しないこと」というのはかなり唐突な印象さえある。ラストで同じセリフをオリバーが父に言うが、その時は「愛とは決して後悔しないこと」の方がニュアンス的に近くなる。「愛とは決してごめんって言わないってこと」と「愛とは決して後悔しないこと」は日本語では言葉も意味も違うので翻訳はどちらかに統一する必要がある。そう考えると翻訳ってほとんど不可能に近いほど難しいものだなあと改めて思う。

ところで昔読んだのと微妙に文章が違っている。「サノバビッチ」を「鉄面皮」と訳してあったのがこの現行版では「クソッタレ」となっているが、「鉄面皮」の方がその後の会話との繋がりがいいと思うんだけど。

その後のオリバーを描いた続編「オリバー・ストーリー」というのがあって、これ実家に本があると思う。読んでみようかな。