表題作はタイトル通りの、中年になって社会的成功も手に入れた男性が、子供時代の仲良し4人組の思い出を綴ったノスタルジー溢れる素朴で可愛い作品。とても楽しく読めた。4人で大人たちの常識をひっくり返すような遊びを次々に仕掛けるのだが、子供らしく失敗するのが自分も似たようなことやった覚えのある人も多いのではないだろうか。読みながらなんとも懐かしい感覚を覚える。トゥンが引っ越すのが嫌で無言でチャーを三杯食べるくだりなど微笑ましくも子供時代あるあるな感じが親近感を感じた。
ただひとつ引っかかったのは時代設定が全く不明な点で、この作品2008年に書かれてて主人公は50歳手前ということは私たちと同じくらいの年輩なのだが、もしそうなら子供時代に携帯メールなんてあるわけないし、我々と同年輩が8歳の頃ならベトナムは戦争の真っ只中だったのではないだろうか。
併録されている「菊の花に別れを告げて」はベトナムの田舎を舞台に、もう少し年長の少年を主人公に据えて彼の淡い初恋を描くのだが、これもノスタルジックで微笑ましい作品と思いきや、ラストに怒涛の展開が。読後感は苦味が残る。作品の出来としてはこっちのほうが上だと思うが、これも叔母がガーさんを連れてくると言ってくる下りで電話で話しているかと思いきや面と向かって話してるという、どうやって話しているのかよくわからない描写があったのが気になった。
ベトナム文学というと「戦争の悲しみ」とか「ツバメ飛ぶ」という戦争がらみのものしか読んだことがなかったのだが、これはどちらも戦争とは無縁な、と言うか注意深く戦争に繋がる部分を消している感じの内容で、ベトナムの市井の人々の暮らしが活写されていて興味深い。ただ普段日本やフランスのひねた文学を読みつけた我々にはちょっとナイーブすぎるような気もする。
いや日本の作品が出版社の好みでひねりすぎなんだと思う。日本にも、この作品みたいな素直な小説を読みたいと思っている読者も、実は多いのじゃないだろうか。