読書

ナタリア・ギンスブルグ ある家族の会話

戦前から戦後への激動の時代を生き抜いた作者と、頑固者の父と陽気な母、そして作者を含めて5人の兄弟たち家族の物語。 起こったメインのエピソードは時代を追って語られてはいるのだが、それから派生して作者が思いつくままに脱線しながら書いた風なところ…

ル・クレジオ 偶然 帆船アザールの冒険 他

ジャン=マリ・ギュスターヴ・ル・クレジオは2008年のノーベル文学賞受賞者。代表作「黄金探索者」でノックアウトされたが、結構当たり外れの大きな作家でもある。これまで読んだ中で一例を挙げると「黄金探索者」「隔離の島」「モンドそのほかの物語」は当…

ローレンス・オズボーン ただの眠りを

1988年、メキシコ。 あのフィリップ・マーロウが72歳で遭遇した事件。溺死した男ドナルドの保険金支払いについての調査を依頼されたマーロウは、死んだのは別人だということを突き止めるが… マーロウ物は本家のチャンドラー以外にも長編だけで4作、短編なら…

内田洋子 ロベルトからの手紙

内田洋子さんの「ロベルトからの手紙」を読んだ。内田洋子さんはご本人が長く住んだイタリアを舞台に、エッセイのような小説のような作品を描く人で、以前読んだ「ジーノの家」「ミラノの太陽、シチリアの月」が須賀敦子さんのエッセイにも迫る素晴らしい作…

アンリ・ミュルジェール ラ・ボエーム

若き芸術家たちの青春と悲恋を描いたプッチーニの有名人気オペラ「ラ・ボエーム」。その原作がフランスの作家ミュルジェールの「ボエームたちの生活の情景」という小説だというのはオペラのCDやなんかの解説に書いてあって昔から知っていたのだが、これまで…

小川一水 ツインスター・サイクロン・ランナウェイ

百合SFアンソロジー「アステリズムに花束を」に収められていた同名短編の長編化作品。木星型惑星を舞台に、その惑星のガスの上を泳ぐ鉱物の「魚」を採る漁師たちがいくつかの士族を形成して、その伝統が300年続いている。そんな因習で縛られた社会で女同士で…

辻邦生 安土往還記

さて経済ばかりを心配して国民の生命や健康など二の次の日本政府が発令した都府県限定で強制力がない中途半端な緊急事態宣言で一層状況を悪くしている。学生なんかは大学もバイト先も休みだしお店も閉まって不便な東京から故郷に戻る人もいるだろう。そうし…

タブッキ 島とクジラと女をめぐる断片

さていよいよコロナウィルスがヤバくなってきたが、『まだ非常事態宣言を出す事態には至っていない』ってじゃあどうなれば「非常事態宣言を出す事態」なのか。感染者が何千人に達したらとかか?ではそれまでに感染した人は、もし今非常事態宣言を出せば防げ…

ル・クレジオ 心は燃える

フランスの作家ル・クレジオ。ブログのタイトルを「黄金探索者」とするくらいなのだから私がかなり好きな作家である。ただしこの作家、作品の出来不出来にかなりばらつきがあり、さらに翻訳者がまずいと全く魅力が伝わらない場合もある。この「心は燃える」…

ローダンNEO 第23、24巻

第23巻「アトランティス滅亡」第24巻「永遠の世界」 さてローダンNEO第3シーズンもいよいよ最後の2冊。第23巻では惑星ケドハッサン(トラムプ)を脱出したクレスト一行が地球のアルコン人植民地であるアトランティスを訪れるが、そこにもメタンズの魔の手が…

プルースト 失われた時を求めて第6巻 ゲルマントのほうⅡ

光文社古典新訳文庫から出ている高遠弘美氏による翻訳シリーズ。最初の巻が出たのが2010年だからすでに10年たっているのだが、翻訳者の個人的な都合もあるそうでなかなか翻訳が進まない。この第6巻も前巻から2年くらい待っての登場だが、それからもすでに2年…

陸秋槎 元年春之祭

中国ミステリ界の俊英、陸秋槎のデビュー作。陸秋槎は現在日本在住で、中国語でミステリを書いている。ただし中国では、ミステリにつきものの私立探偵という職業は禁止されているそうで、現代中国を舞台にした作品ならば探偵の登場しない作品にしなければな…

ローダンNEO 第20-22巻

第20巻「水の惑星レヤン」第21巻「ワールドスプリッター」第22巻「時間の貯水槽」 なかなか目まぐるしい展開の第3シーズン。複数のストリーが並行して語られるのはいつものことだが、このシーズンでは偶数巻がローダンの、奇数巻がクレストの話になっていて…

テッド・チャン 息吹

現代最高のSF作家と言うと飛浩隆とこのテッド・チャンが双璧だと思うのだが、この二人の共通するのはその寡作ぶり。飛も30年くらいの間に出した本が5冊くらいというつわものだが、テッド・チャンに至っては1990年にデビューしながらこれがやっと2冊目という…

SFマガジン編集部・編 アステリズムに花束を

SFマガジン2019年2月号は「百合SF特集」という企画で異例の大ヒット。雑誌なのに重版がかかるほど売れたらしい。これはそのヒットを受けて2月号に収録された5作に書き下ろしなどの4作品を加えて文庫化した百合SFアンソロジー。 今話題の草野原々、伴名練をは…

ローダンNEO 第17-19巻

第17巻「テラニア執政官」、第18巻「ヴェガ暗黒時代」、第19巻「トルト戴冠」 自身が余命いくばくもないことを知ったクレストが永遠の命を探すためにタチヤナとトルケル・ホンを伴って転送機を使ってどこかへ行ってしまったことを知ったローダンたち。レジや…

ボフミル・フラバル 私は英国王に給仕した

チェコの作家フラバルによる、あるホテル従業員のチェコ人が自らの半生を振り返って語ったという形で書かれた小説。とあるホテルのしがない一給仕に過ぎなかった彼がひょんなことからエチオピア皇帝に給仕する栄誉にあずかり、さらには第二次大戦の混乱と破…

ストルガツキー ラドガ壊滅

ソ連・ロシアのSF作家アルカジー&ボリス・ストルガツキーの作品はほとんどすべて読んできたのだが、最後に残ったのがこの「ラドガ壊滅」。昭和42年(1967年)に大光社という出版社から出て以来再刊されることもなく、すっかり幻の本となっていて中古市場で…

三遊亭円朝 怪談牡丹灯籠

NHKで「牡丹灯籠」のドラマが始まっていて、初回は見逃したのだがついつい第2回を観てしまって、あれどんな話だったっけと思って青空文庫版をkindleで読んだ。 旗本飯島平左衛門の娘、お露は浪人の萩原新三郎に恋したあげく焦れ死にをする。しかしこの世のも…

野谷文昭編・訳 20世紀ラテンアメリカ短篇選

この春からスペイン語を勉強しだした。と言ってもNHKのラジオ講座を聴くのとスマホでDuolingoをするくらいなのだが、それで日に2~30分くらいは使ってしまう。そのため本を読む時間がめっきり減少してしまって、この本も読み始めてから読み終わるのに2ヶ月近…

エリック・カール My Very First Book of Colors / Numbers

もうすぐ一歳の誕生日を迎える孫の誕生日プレゼントにしようと買ってきたエリック・カールの知育絵本。エリック・カールは「はらぺこあおむし」が有名なアメリカの絵本作家。この「My Very First Book」シリーズは幼児向けのボードブックで、他にも何種類か…

ローダンNEO第13-16巻

ローダンNEO第13巻「トーラ救出」、第14巻「宇宙オペラ」、第15巻「タイタンの秘密」、第16巻「ラストホープ」 さてローダンNEO。1巻ずつ感想を書くような作品でもないし、なによりめんどくさいので第2シーズン後半一気に。ストーリーは同時進行で①ヴェガ星…

山尾悠子 歪み真珠

山尾悠子の短編集。国書刊行会から出ていたが高額で手が出ずにいたが、最近ちくま文庫から出たので読んだ。 15の短い作品を収めた短編集。この人の作品の中ではかなり読みやすい方だと思う。 どの作品をとってもそのイマジネーションの濃さに圧倒される。冒…

ローダンNEO 第11巻、第12巻

ローダンNEO第11巻「フェロル攻防戦」、第12巻「海底ドーム」。 ヴェガの惑星フェロルを攻撃するトプシダーに撃墜されたローダンたちはフェロルに不時着、トーラは行方不明、何とか脱出したローダンたちはタコたちのグループと別れ別れになってしまう。地球…

チョ・ナムジュ 82年生まれ、キム・ジヨン

韓国でベストセラーになり、賛否両論から社会現象を引き起こしていると話題の作品。読んでみると平凡な韓国人女性キム・ジヨン氏の30代までの人生を描いた作品だ。ここで描かれたキム・ジヨン氏の人生は特に不幸なものではなく、というかどちらかと言うと恵…

飛浩隆 零號琴

現在日本最高の、いやひょっとして世界最高のSF作家、飛浩隆の最新長編小説。600ページ超えの大作で、ハードカヴァー税抜き2300円となかなか高額の本だが買って読みましたよ。 惑星美褥は500年前の戦争による破局のあと平穏に時を重ねていたが、戦争で失われ…

ローダンNEO 第9巻、第10巻

ローダンNEOの第二シーズン。第9巻「グッドホープ」では第8巻で奪われたアルコン製宇宙船の奪回作戦が描かれ、第9巻「ヴェガ遭遇」では奪回したばかりの宇宙船でヴェガ星系へ向かう。これにリコの復活と、どっこい生きてたあのキャラとの出会い、さらには別…

自叙伝 ジャン・リュック・ピカード

米国の人気SFドラマシリーズ「Star Trek: The Next Generation(新スタートレック)」(以下TNGと表記)の主人公でエンタープライズ艦長、ジャン・リュック・ピカードが自らの生涯を回顧して書いたという体裁の書籍。実際の著者はデヴィット・A・グッドマン…