飛浩隆 零號琴

現在日本最高の、いやひょっとして世界最高のSF作家、飛浩隆の最新長編小説。600ページ超えの大作で、ハードカヴァー税抜き2300円となかなか高額の本だが買って読みましたよ。

惑星美褥は500年前の戦争による破局のあと平穏に時を重ねていたが、戦争で失われていた伝説の巨大楽器美玉鍾が再建され、そのお披露目を兼ねた大假劇の上演のために特種楽器演奏家のトロムボノクと相棒シェリュバンが美褥を訪ねるのだが…

いやこれはすごい。この作家の作品はサイバーパンク的な苛烈な世界を圧倒的な描写力で描き切ってしまう事なのだが、この作品ではそこにさらにアニメ的・ラノベ的な要素をぶち込んで、その闇鍋感はものすごい。明らかに「プリキュア」をもじった「フリギア」の登場には驚き呆れた。ラノベ的な語り口も相まってこの作品大丈夫かと思わせながら後半のSF的な展開へとみごとに収斂していく。いやーすごいもん読みました。

SFである以上仕方がないのだが、矛盾点はある。この世界の美褥以外の人々は美褥の人々が不老不死もしくはおそろしく長命だと知っていたはずで、500年もの間にはその謎を解こうとした者もいたはず。美褥の人々も自分の正体を知らなかったわけなので、誰かが秘密を守ろうとしていたとも思えない。

美褥の人々が人間でないと知ってその権益を奪おうとする者がちらっと出てくるが、美褥の人々の実態が何であれその時点で人間として登録されていたのだから、少なくとも裁判所の判断を受けるまでは人間としての権利があるはずだと思うのだが。

あとこの作家の作品全体に言えることだが、世界の構築そのものを「漢字」に頼りすぎているように思う。今作も読みにくい人名・名称のオンパレードなのが気になった。