内田洋子さんの「ロベルトからの手紙」を読んだ。内田洋子さんはご本人が長く住んだイタリアを舞台に、エッセイのような小説のような作品を描く人で、以前読んだ「ジーノの家」「ミラノの太陽、シチリアの月」が須賀敦子さんのエッセイにも迫る素晴らしい作品だったので期待して読んだ。
今回も基本的な作品のコンセプトは前に読んだ二作と同じで、イタリアで交流のあった人々の人生の一幕のエピソードを、今回は「靴」をテーマに描いたものなのだが、今回は一作あたりのページ数が少ないこともあって少々内容が薄く、以前の作品ならもうひとひねり入るところがこちらではあっさり終わってしまい、掘り下げが足りない気がした。たとえば冒頭の「赤い靴下」。なんだかこの人の作品らしからぬとげとげしい幕切れがとても気になったし、全然何の解決もない「私たちの弟」や「いつもと違うクリスマス」「忘れられない夏」など、今回は苦みの強い作品を集めたのか、それとも短い分苦みが強く印象に残るのだろうか。
とはいえすでに何作も書いてらっしゃるわけでよくもネタ切れにならないものだと感心する。それだけたくさんの人と話し、友人になってかかわりあってきたという事なのだろう。
誤植なのか明らかに意味が違う言葉が2箇所あったのが非常に気になった。特に「寝台特急その1」に出てくる「過小評価」という言葉は全く意味が違う。ちゃんと校正してほしいものだ。