ローレンス・オズボーン ただの眠りを

 

1988年、メキシコ。
あのフィリップ・マーロウが72歳で遭遇した事件。溺死した男ドナルドの保険金支払いについての調査を依頼されたマーロウは、死んだのは別人だということを突き止めるが…
マーロウ物は本家のチャンドラー以外にも長編だけで4作、短編なら「フィリップ・マーロウの事件」収録作などが相当数あって、だいたい読んでるが、話が大きくなりすぎた「おそらくは夢を」やリンダとの結婚生活とその破綻をはっきり描いてしまった「プードル・スプリングス物語」は正直イマイチな出来で、それらの作品よりこれの方が好きだった。
72歳という事で派手なアクションは封印しながら、老境を迎え枯れてしまったはずのマーロウが殺人事件と美しき悪女にもう一度対峙することになるのだが、老いたマーロウをかなりリアルに描いているし、「長いお別れ」からざっと30年後という時間が流れ、老いた分オリジナルのマーロウとの差異もあまり気にならない。ただラストで事件に完全な決着がつかないのは気になる人も多いだろうと思う。
日本語とか日本刀、マルスウィスキーとか日本がらみの記述多いのも日本人ファンには嬉しい。
ラストの会話が老境の近い私にも響いたが、リンダー・シニアは誰の骨を警察からもらってきたのかという疑問が残った。
それとマーロウと言えば軽口が売り物の一つなのだが、この作品ではマーロウが言ったにしては安易な比喩表現がいくつかあり、それが気になった。