プルースト 失われた時を求めて第6巻 ゲルマントのほうⅡ

光文社古典新訳文庫から出ている高遠弘美氏による翻訳シリーズ。最初の巻が出たのが2010年だからすでに10年たっているのだが、翻訳者の個人的な都合もあるそうでなかなか翻訳が進まない。この第6巻も前巻から2年くらい待っての登場だが、それからもすでに2年経っている。私が生きてる間に完結したらいいな。というより高遠氏は私より10歳くらい年長なので正直そちらの方も心配になってきた。

で、この「ゲルマントのほうⅡ」だが、本文が400ページくらい。で、そのうち350ページくらいはヴィルパリジ夫人のサロンに集まる社交界の人々のスノッブな会話とそれに触れる語り手の思いが延々と描かれる。と聞くとたいていの人は、いやそれって面白くないでしょ、と思うだろう。私もこれってちゃんと読み通せるのかと疑問に思いながら読み始めたのだけど、実際読んでみるとこれが大変面白い。訳者はこの作品を「社交界の皮相さを通じて、スノッブな人間たちが織りなす壮大な滑稽劇を見事に描きつくした類い稀な小説」だと述べているがまさしくその通り。こんな題材で小説を仕立ててしまうという事自体驚きである。もっとも、それらの人々を客観的に見て批判的に描いている語り手(プルースト)自身もなかなかのスノッブぶりで、もはや目糞鼻糞を嗤うという感じである。残りの50ページは語り手の祖母の死を描く痛ましい部分になるが、これも悲しみの中に俗物医師のコタール教授や女中のフランソワーズの滑稽というか常識外れな言動などをきっちり描いていて辛辣である。

というわけで、祖母が亡くなった以外はこの巻でも全くと言っていいほどストーリーは動かず。語り手とアルベルチーヌの恋はどうなるのか。サン・ルーとラシェルの恋の行方は? 今回はアルベルチーヌは名前すら出てこないし、ラシェルはヴィルパリジ夫人らの会話で噂されて糞味噌に言われるだけの登場に終わった。てかそもそもプルーストそんなことを書くつもり自体あるのかはなはだ疑問だ。

次はいつ読めるのか。光文社古典新訳文庫のHPを見てもまだ発売の予定はないみたいだ。この高遠氏の翻訳は、他の翻訳と比べても非常に読みやすく解説も丁寧でわかりやすく、いまさら他の翻訳を読む気にならないのでぜひ頑張ってほしい。