山尾悠子 歪み真珠

山尾悠子の短編集。国書刊行会から出ていたが高額で手が出ずにいたが、最近ちくま文庫から出たので読んだ。

15の短い作品を収めた短編集。この人の作品の中ではかなり読みやすい方だと思う。

どの作品をとってもそのイマジネーションの濃さに圧倒される。冒頭の寓話的な「ゴルゴンゾーラ大王あるいは草の冠」だけが少し異質だが、この後に置かれた各作品ではこの作家ならではの濃密で謎に満ちた世界が展開する。「美神の通過」では、エティンという荒れ野を美神が通過するというので一目それを見ようと女性たちが集まるが、そもそもその美神は何者で何のためにそこに現れるのか全く説明されず、しかも集まった群衆も結局ははっきり美神を観た者はいないというすべてが謎めいた作品なのだが、この作品がなんとも言えない求心力がある。この後に続く作品も、迷宮のような娼館街を描き出す「娼婦たち 人魚でいっぱいの海」や近親相姦的なファンタジーの断片「マスクとベルガマスク」などどれもが謎に満ちていながら何とも言えない魅力を放っている。

この作品集中一番長い「ドロテアの首と銀の皿」はこの作家の傑作「ラピスラズリ」と同じ世界なのだろうか、同作品を構成する最大の要因だった「冬眠者たち」を描いたもので、静かな雰囲気の中でイメージが炸裂する強烈な文章にぞわぞわする一作。「火の発見」は「遠近法」と同じ腸詰宇宙が舞台の作品で興味深いことは間違いないのだが、腸詰宇宙そのものがあまりにも荒唐無稽でちょっとついていけない。最後の方の「夜の宮殿」シリーズ2作はどちらも冷たいイメージがきらりと光る傑作。

というわけですごい一冊だった。短編集だからこそ描かれているイメージのバラエティが多く、そういう点では近作の「飛ぶ孔雀」などよりこちらの方が数段上だと思う。でもこの人の作品って全く受けいれられない読者も多いだろうなあ。