レオ・ペルッツ 第三の魔弾

オーストリアユダヤ系作家ペルッツの処女作。
アステカ文明を滅ぼしたコンキスタドール、コルテスの前に立ちふさがったのはラインの暴れ伯の異名を取るグルムバッハ。母国ドイツを追われ流れ着いたアステカの地で恩義を受けたアステカ王に義理立てして、たった三発の銃弾でコルテスの大軍勢からアステカを守ろうとするが、その三発の銃弾には呪いがかかっていた...
ペルッツといえば以前「アンチクリストの誕生」を読んだ。あれもそうだったが史実に創作を絡めて物語を進める。この手法は歴史小説の王道とは言えるのだが、その巧みさはさすがペルッツ。「悲しき夜」の事件に至る過程は特に極めて巧みに作品に織り込んでいる。こういったコルテスのアステカ侵略の史実に、全くの創作のグルムバッハと異母兄弟メンドーサ伯の確執など虚実を絡めてなかなかリアルなので読んで全く違和感はない。
登場人物に善人がほとんどいない。グルムバッハの部下のドイツ人たちはいいやつばかりだが全員すぐ死んじゃうのも面白い。敵役のメンドーサ伯爵の徹底した悪役ぶりも見所。
ラストも夢落ちならぬボケ落ちという、なんとも言えない冷やっこさ。
ただしヒロインのはずの美少女ダリラがもっと魔性の女に描かれてないと説得力が弱い気がした。
 
映画化したら面白そう。
でもコルテスのアステカ制圧のあらましについてはWikipediaとかで予習して読んだ方がいいと思う。