小川一水 天冥の標Ⅸ ヒトであるヒトとないヒトと

前巻に引き続きメニー・メニー・シープ政府と救世群の戦いが続く中、救世群との和解を実現しようと動き出すイサリは単身エウレカに潜入するが、そこで囚われてしまう。だが救世群も一枚岩ではなく、ミヒルに反感を持っている者もいるようだ。

この辺りまで進むと、もはや一巻ごとにストーリーが途切れたりしない。このため、実際にはだいぶ先まで読んでるので正直この巻まででどこまで話が進んだのだったかよくわからない感じになってきてしまった。

第1巻から「地球から来た」として登場していたルッツとアッシュは、やはり救世群討伐のためにやってきた地球艦隊から調査のために派遣されていた。そして明らかになるセレスの真実。救世群は甲殻化した際に生殖能力をなくし、しかも元の体に戻るためのデータを失ってしまっていた。データはカンミアの母星に送られていたため、そこに行けば元の体に戻るためのデータが手に入ると考えた彼らはセレスにドロテアを埋め込み巨大宇宙船に仕立てて、全員が冷凍睡眠に入って300年の旅に出たのだった。

激闘の末カドムらはついにミヒルを追い詰めるが... なんか急激に普通のスペースオペラになりつつあるような気もするが、あと3冊、さてどうなるのか。 カンミアはそもそもオムニフロラに対抗すべく地球にミスミィを送ったのだが、それも500年も前の話。そこで何がセレスを待ち受けているのだろうか。

この巻ではメニー・メニー・シープ政府と救世群の和解へ進んで行くのだが、現実の世界のニュースではハマスイスラエルの対立がさらに混迷の色を濃くしている。現実には長年の怨みはそうそう消えそうにない。この物語では冥王斑がカンミアの作った薬で治せることによって和解がぐっと近づいたのだが、宗教という抽象的なものが原因の対立はそうそう消せるものではないのだろうか。それとも何か共通の巨大な敵でもいなければ怨念を超えて協力することなどできないのだろうか。悲しいことだ。