小川一水 天冥の標Ⅵ 宿怨

第5巻から150年ほどのち。救世群のリーダー、ヤヒロ家の少女イサリは自然公園的なコロニー「スカイシー3」で遭難しかけていたところを少年アイネイアとその友人たちに救われる。しかし救世軍は秘密裏に異星人と接触し人類に戦いを挑もうとしていた。穏健派のイサリは強硬派の妹ミヒルと対立するが戦いへと押し切られていく。一方太陽系外探査船ジニ号のクルーに選ばれたアイネイアだったが... というわけで今回はついに宇宙戦争に。

前作のラストで100年後に到着すると語られた異星からの訪問者は到着しておらず、あれっと思ってたらなんと第1巻で登場した「石工(メイスン)」たちがその異星人だったことが判明。ただ彼らは集合意識で多数の個体が接続されて初めて能力を発揮するので少数では知能が低いというのは絶妙な設定。彼らはまず「恋人たち」に接触、彼らを通じて救世群に技術を供与、いつの間にかロイズ非分極保険社団の最新鋭艦隊をはるかに凌ぐ宇宙艦隊を建造していた。さらに全住民を甲殻化して怪物のようのような外見と戦闘力を手に入れるのだが、生殖能力をなくしてしまう。彼らの目的は全人類を冥王斑に感染させることだった。一方ロイズは、ドロテア・ワットを再起動して救世群に対抗しようとする。ドロテアを動かすためのカギがアイネイアだった。さらにパラスでの商務大臣ブレイド・ヴァンディ(前巻のタックの子孫)と救世群の総督シュタンドーレとの交流、ヴァンディの友人の娘で羊と会話できるメルルのエピソードなども盛り込まれ、大部なだけあって非常に内容が濃い。

いや3冊あっという間に読んじゃった。 登場人物も激増、物語もかなり複雑なのだがよく練ってある。ボーイ・ミーツ・ガールから始まって激烈な宇宙での戦闘まで、このシリーズらしく非常に振幅が大きい。そしてまだ第1巻まで300年もの時間があるのだが、この巻で登場したイサリとミヒルと第1巻のイサリとミヒルは同一人物なのだろうか?

SFとしてはジニ号の冷凍睡眠についての記述がお見事。人間をそのまま冷凍すると水分が凍って膨張して細胞を傷つけてしまう。なので凍っても膨張しない水の代用品が必要で、たまたまそれが開発(発見?)されて冷凍睡眠が可能になったというのである。これは今までSFで見かけなかった記述だけど、言われてみたら納得だ。

そしてこれまでの各巻がそれぞれ一応の終わりになって次巻では別の主人公による別の話だったのが、今回は3冊読んだのに終わってない!次の第7巻は今回に引き続きアイネイアが主人公のようだ。太陽系全体を巻き込んだ大戦争がどう惑星ハーブCに繋がっていくのだろうか。次も楽しみ。