小川一水 天冥の標Ⅶ 新世界ハーブC

前巻から直接続く第7巻。

ジニ号は救援に来た「恋人たち」のシェパード号ともどもセレスに墜落、なんとか生き延びたアイネイアとミゲラはスカウトの友人たちがセレスの地下施設「ブラックチェンバー」で多数の子供達と共に生き延びている事を知る。 そこで友人たちと共に、生き延びるために社会を構築していくことになるのだが...

子供たちばかりのコミュニティを少人数の少年たちがまとめていかねばならないというサバイバル群像劇になった今巻。今回は前巻で猛威をふるった救世群は影を潜め、アイネイアと仲間たちの悪戦苦闘に絞って物語が展開する。考えてみれば、子供たちだけのコミュニティがうまくいくわけもなく、局所的には結構残酷な事態も起きたりするわけで、それでも「政府」として社会を運営していくならある程度は切り捨てて最大公約数的な考え方をするしかない。そういう社会の残酷さを含めて読めば読むほど細かいところまで本当によく考えてある作品だ。

そしてついに惑星ハーブCの真実が明らかになるのだが、サンドラの治世下で作られた物語がいつの間にか歴史として語られてセレスがハーブCになってしまう。これはいくら子供たちばかりのコミュニティとはいえ無理がないか?メニー・メニー・シープの住人にはラゴスをはじめ「恋人たち」のメンバーもいたわけで、彼らがみな記憶をなくしてしまうというのも無理がないだろうか。

ラストは老いたアイネイアとミゲラが元大統領サンドラを訪ねるシーンで終わり。アイネイアとミゲラが、紆余曲折はあったし、わずかに気がかりなことは残ったが、大筋では幸福な人生を送ったことが示唆され、一応のハッピーエンドで読後感もよい。 次作はとうとう第1巻の時代に戻ることに。