小川一水 天冥の標Ⅱ 救世群

別な惑星の話だった第1巻とは打って変わって第2巻は21世紀の地球が舞台。2015年、パラオのプーロッソル島というリゾート地で未知の疫病が発生。駆けつけた日本人医師児玉圭伍らだったが、重症の日本人女子高生千茅と謎の男性ジョプ以外は全員死亡してしまう。極めて致死性が高く、回復した患者も感染源になってしまうこの病気は患者の顔にあざが残ることから「冥王斑」と呼ばれる事になる。圭伍らの奮闘空しく、やがて冥王班は世界中に広がり、全世界はパニックに陥る...

というもので、パンデミックに際しての対応がとてもリアル。冥王斑は接触感染し潜伏期間が約24時間。致死率95パーセント。コロナよりもはるかに致死性が高いので、極めて厳格な隔離が行われ、作中数年が経過するが作中で発生から1年半で全世界で50万人の死者という記載があるので、現実のコロナほど感染者が多かったわけではないという事になる。致死率95パーセントで50万人死んだとしたら、感染者は世界全体で53万人程度に過ぎないという事になるからである。(ちなみに23年3月時点でコロナウィルス感染者は約7億6千万人)その辺による微妙な違いはある。たとえば作中に授業や勤務がリモート化されるといった記述はない。致死率が非常に高いので感染者の囲い込みなどはコロナの比にならないほど厳重なものになっただろうと思われるが、実際にコロナ禍で体験したような記述がゴロゴロ出てくる。この作品が出たのがコロナ禍以前の2010年というのが信じられない、10年後にコロナ禍で起こる事を予言していたかのような作品。 これ単独で読めばあまりSFの要素はないので、単独の、パンデミックによるパニック小説として読んでもいいと思う。

冥王斑の回復者はウィルスを持つ保菌者なので、回復後も未感染者が接触すると感染してしまう。このため回復者に対しても徹底した隔離がとられ、やがて世界中の冥王斑回復者は島を与えられそこで生活することになる。これがのちに「救世群(プラクテイス)」と呼ばれる勢力となる。これが今後どう未来の話へ繋がって行くのか、興味は尽きない。