ブルックナー 交響曲第4番

ブルックナーの第4交響曲変ホ長調は「ロマンティック」のタイトルでも知られるこの作曲家の全作品の中でも最も知られた作品である。しかしそれでいて実は、改稿・改訂問題が多いブルックナーの全作品の中でも随一の問題が多い作品であると言えるだろう。

第4交響曲は1874年に初稿が完成。しかし第3交響曲の失敗を受けて早速改稿、第1次改稿期の1878年に第2稿が完成している。これは主題などのメロディこそ同じだが、メロディの伴奏やカウンターメロディ、展開部以降の構成など全くの別物。もはや別の曲と言ってもいいような大幅な改稿で、第3楽章に至っては全く別の曲に差し替えられた。しかしこれにも満足できなかったブルックナーはさらに1880年に終楽章を大改稿している。現在普通にブルックナーの第4交響曲というと1878年版の第1~3楽章に1880年版の終楽章という構成のいわゆる「第2稿(1878-80版)」が演奏されることが多い。しかしブルックナーは晩年の第2改稿期にさらに改稿を重ね1888年版というものも存在している。これは1878ー80版を刈り込んだものなのだが、この版がまた面倒を呼んでいる。

初めてこの曲が出版されたときこの1888年版がベースになったものが出版されていたのだが、のちに第2稿(1878-80版)が出版され、こちらが「原典版」とされたこともあり、1888年版は弟子のレーヴェやシャルクが改竄したものとされて、改訂版、改竄版などと呼ばれ軽視されるようになった。最近ではレーヴェらが恣意的に改訂したわけではなく、ブルックナーが監修していたという事実が明らかになり、1888年版は「第3稿」と呼ばれるようになった。戦前の録音などはほとんどがこの「第3稿」によるものだが、CDには「改訂版」と書いてあるものが多いようだ。

さらにこれらを出版するにあたって様々な校訂者が関わっていて、ハース版(第2稿1878-80および1878終楽章)、ノヴァーク版(第2稿、初稿)のほかにコーストヴェット版第3稿、さらに第2稿を中心に当時実際に演奏された版を復元したグンナー=コールス版と様々な版がある。

最近は第1稿を取り上げる指揮者が多くなってきた。従来の第2稿に慣れた耳には確かに興味深い聴きものであることは認めるが、第1稿は無駄な音が多く冗長で、第2稿の完成度に遠く及ばないと思う。

昔からたくさんの演奏家が取り上げてきた曲なのでクナッパーツブッシュフルトヴェングラーワルターベームといった一昔前の巨匠による名演奏も多い。カラヤン/べルリンフィルはカミソリの刃の上を歩くような緊張感と美しさが同居する第2楽章が素晴らしい。最近のものならネルソンズ/ゲヴァントハウス管弦楽団が21世紀らしいバランスの良い演奏。いずれにしろ初めて聴くなら「第1稿」は避けて。