シュティフター作品集第1巻 習作集1

シュティフターは19世紀のオーストリアの作家。私はこの作家の作品が好きで、先日手に入れた松籟社の「シュティフター作品集」全4巻のうちの第1巻をなんとか年内に読了。 4作の中短編が収められているが、うち2作は以前に読んだものの訳違い。

「コンドル」はこの作家の事実上の処女作なのだそうだが、男性と変わらない能力を示そうとして挫折するヒロインと、それを見守る男性を描いた作品。もちろん当時は当たり前だったのだろうけど、今読むと女性(とその自立)に対する感覚が古すぎてうーんという感じ。この作家らしい緻密な自然描写にも乏しい。

「荒野の村」岩波文庫「ブリギッタ・森の泉」にも納められていた作品で、荒れ地に住む青年フェリックスを描く短編。こちらでは俄然自然描写が濃密になるが、今度は逆にストーリー性は乏しい。ある意味この作家のエッセンシャルな短編。

「喬木林」は以前読んだ「書き込みのある樅の木」に収録されていた「高い森」の旧訳。中世ヨーロッパ全体を巻き込んだ宗教戦争と言われる30年戦争の時代を舞台に美しい姉妹と騎士たちが活躍するロマンティックで悲劇的な作品。作者本人はこの作品があまりにもフィクションなので気に入らなかったそうだが、中世ロマンと「善」の力みたいなものを信じたこの作家らしい佳作だと思う。でも新訳のほうが読みやすいかな。ブルックナーの第4交響曲を聴きながらどうぞ。

最後に収められてこの本全体の半分以上の分量がある「曽祖父の遺稿」は田舎医師と隠居大佐一家の長年にわたる交流を描いた作品で、濃密な自然描写に加えてストーリーの起伏も(この作家にしては)あり、のちの長編「晩夏」と似た雰囲気がある、とてもこの作家らしい作品。「晩夏」が長すぎて無理な方はこちらを。作者はこの作品がとても気に入っていたのか(あるいは気に入らなかったのか)、生涯にわたって改稿を繰り返し、未完のものも含め4つの稿があるらしい。ここで読めるのは第2稿らしい。

シュティフターの小説は様々な点で同じオーストリアの作曲家ブルックナーの音楽と近しいイメージがある。同じ作品の改稿を繰り返したという点でも似ている。

というわけで、当ブログの今年の更新はこれで終わりです。今年はロシアのウクライナ侵略戦争とそれに伴う物価高に加えコロナ禍もなかなか収まらず本当にロクな年ではありませんでしたが、来年は良い年になりますように。