シュティフター 森ゆく人

シュティフターの中編小説。「習作集」の中の一作で3章からなる130ページくらいの短い作品。

第1章は「森ゆく人」と呼ばれる老人ゲオルグと森番の息子の少年との交流が描かれ、やがて成長した少年が森を去ると、ほどなくゲオルグも森を去ってしまう。第1章はこの作家お得意の自然描写がやたらに多く、物語らしいストーリー展開もほとんどなく、正直全然面白いところがない。

第2章ではそのゲオルグの前半生が描かれる。第1章と第2章にはほとんど関連がなく、第2章では若き日のゲオルグが愛する妻コローナを得て幸福な結婚生活を送る経緯が語られる。ずいぶん読みやすくなるのだが、子供ができなかったことから突然の離別に至る。はっきり言って読者も面食らう展開である。

短い第3章では離別から十数年後、2人が偶然再会するエピソードが語られる。

子供ができない以外なんの問題もなく、愛し合ったままなのに、そのたった一つの問題のために離婚に至る経緯も全く納得できないし、愚かすぎる。頑な二人に対する罰のような第3章での残酷な再会は強い印象を残すが、センチメンタルな恋愛小説によくある陳腐なものともいえる。

この作品、離婚問題を扱った作品なので保守的な同時代の読者には受け入れられなかったそうだ。ちなみに当時の南ドイツやオーストリアでは離婚が許されないカトリックが主流だったので、この作品は離婚が許されるプロテスタントが優勢な北ドイツを舞台に設定してある。

離婚の動機があまりにも古い価値観に基づいているので、離婚が一般的な事になった現代の読者にも理解できない上に作品の約半分の分量がある「第1章」が全く機能していないという構成にも問題がある微妙な作品だった。