レーモン・クノー あなたまかせのお話

クノーは20世紀中盤に活躍したフランスの作家。 かなり前衛的な手法で作品を書いた作家らしいのだが、今回初めて読んだ。これは短編集で、彼の短編のほぼ全てが収められている。フランスでは長編小説のほうが圧倒的に人気があり、短編小説はあまり読まれないのだそうで、有名な「地下鉄のザジ」をはじめ長編小説をいくつも発表しているこの作家の残した短編もかなり少ない。

クノーは1960年代に登場した「ウリポ」と呼ばれる前衛作家集団のメンバーで、このグループは単語の置き換えとかある文字を全く使わないなど様々な前衛的な手法で新しい文学を模索したグループなのだが、そのメンバーらしくこの作品集も様々な小説のスタイルの短編が収められていて面白い。

冒頭の「運命」から独特の世界が展開する。この作品は非常に短い7章からなり、物語なのかどうかも怪しいようなとりとめのない文章が並ぶ。で、「この物語はちっとも面白くない」と人を食った終わり方をする。「その時精神は…」シュールレアリズムの文章。収録作の三つ目「パニック」からやっと普通の小説っぽいものが現れるが、それも何か不思議な話が多い。存在したのかどうかすらあやふやな犬が出てくる「ディノ」や、しゃべる馬がバーでくだをまく「トロイの馬」が印象的。「パリ近郊のよもやま話」「夢の話をたっぷりと」は物語の断片を集めただけの作品。「通りすがりに」はシチュエーションコメディみたいな戯曲だし、表題作「あなたまかせのお話」は、のちに流行したゲームブック(読み手が選択肢を選ぶことで物語の展開や結末が変わるというもの。筆者が中学生くらいの頃ちょっと流行した)を先取りした作品だったりとか、とにかく一風変わった作品ばかり。ちょっと変わった前衛的な小説を読みたい人にはおススメ。

巻末にはラジオで放送されたものから文字起こしされたという、文芸ジャーナリストジョルジュ・シャルポニエとの対談集レーモン・クノーとの対話」が100ページにわたって掲載されていて、これがまた面白い。クノーはフランス語の表記と発音のずれに違和感を持っていて、作中には伝統的な表記をせずに発音通りに表記した部分もあるのだそうだ(翻訳者は大変だ)。最後の方の「ウリポ」による実験小説の成果の話はとても興味深かった。 というわけで、レーモン・クノーちょっとハマるかも。