レイモン・クノー 地下鉄のザジ

レイモン・クノーの代表作「地下鉄のザジ」を、白水社レイモン・クノー・コレクションの久保昭博による翻訳版にて読了。

ザジという10歳くらい(?)の女の子がパリに住む叔父のガブリエルに預かられることになってやってくる。ザジはパリで地下鉄に乗ることを楽しみにしてやってきたのだがあいにく地下鉄はストライキで運休中。ザジのパリでの一日の冒険が始まる。ガブリエルはオカマバーでダンサーとして働いているし、いずれもひと癖あるガブリエルの隣人たち、変態なのか警官なのかわからない、名前をいくつも持った謎の男など様々な人物が登場してザジの冒険を彩るが、さてザジは地下鉄に乗るという目的を果たせるのか。

…というわけでなかなかドタバタの一見キュートなお話なのだが、クノーらしく謎や仕掛けもいろいろ施してあって非常に多面的で興味深い作品だ。いかにも1960年代のパリらしいとも言えるし、全然現代の話でも違和感ないようにも思える登場人物たちの、言行はリアルでありながらアイデンティティを曖昧に描くのはクノー一流でお見事。

フランス語は文字で書くとスペイン語によく似ているが、発音は全く違う。なのでスペイン語ができる我が家の次女は文字のフランス語はわりと読めるのだが、ヒヤリングは全くできない。クノーはそんなフランス語の表記法に疑問を持っていたそうで、この小説でも発音の通りの綴りで書いていたりするそうだ。フランス人でさえ一見意味がつかめないのではないだろうか。もちろん翻訳ではそんな部分は出ないので、そういう意味でのこの作家の特色は出せないのかもしれない。それでも十分楽しめた。中公文庫の別の翻訳も読みたいな。

ちなみにこの作品はルイ・マル監督によって映画化されていてすでに名作とされているが未見。各種配信サービスにもないようだ。ちょっと見たいかも。

あと大貫妙子がこの映画にインスパイアされた歌を書いていて原田知世と本人がそれぞれ歌っている。聴いてみたが、ザジこんなかわいいもんじゃないだろうと思った(笑)。