ゲーテ ヴィルヘルム・マイスターの修業時代

昔から一度くらいは読んでおきたいと思っていた「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」を読んでみた。全3巻。

まあまずは率直な感想。なんなんだこれ。「ファウスト」には感動したのに、これには全く共感できない。

まず主人公ヴィルヘルムのブルジョア的理想主義の考えに反感を覚える。彼の考え方を要約すれば『芸術家たるもの、経済的なことも含めてすべてのことよりも自らの芸術の実現に力を注ぐべきである』。いやいやそれはあなたが食うには困らない立場だから言えるんでしょ?そんな夢みたいなこと言ってないで足元見ろよと言いたくなる。それで劇団運営に奔走するメリーナを俗物扱いして見下すとか意味が分からない。 それでも前半は当時の演劇事情やシェイクスピア観など興味深く読めたのだが、アウレーリエの死という事情があったものの、結局経済問題に負けて演劇への夢を投げ出したようにも思える。

中巻後半の「美わしき魂の告白」に至ると、この女性のどこが「美わしい」のか全くわからない。宗教を重んじて愛情を軽んじる傲慢な女としか思えない。これが当時の読者にとっても理想的な女性の姿だったのだろうか。とてもそうは思えない。さらにこの時点でこの女性が何者なのか全くわからない。はじめはその直前に亡くなったアウレーリエの手記かと思って読んでいたのだが、どうも違う。

さらに下巻に至ると、ヴィルヘルムが到達した「理想」がフリーメイソン(ぽい何か)だという事に驚く。さらにミニヨンが死んだというのにそんな事はそっちのけで恋の鞘当て。セックスに対する感覚も現代に比べると全く乱脈で呆れてしまう。ヴィルヘルムってば本人が知らん間に子供二人も作ってるし。

主人公の成長を描くのが「教養小説(ビルティングスロマン)」なはずなのに、ヴィルヘルム本人も結局アホのまま終わったようにしか思えないんだけど。教養小説が主人公の心の成長を描くものなら、それを読む読者にもなにがしかえるものがありそうに思うのだけど、この本を読んで得るものが何かあるだろうか?

続編「遍歴時代」があるのだが、そちらはこれとはつながりは薄いらしいし、とてもじゃないがギブアップ。ゲーテ読むならこれや「ウェルテル」よりも「ファウスト」の方が1000倍くらいいいと思う。