マーガレット・ミッチェル 風と共に去りぬ

ヴィヴィアン・リークラーク・ゲーブルが主演したあの有名映画の原作小説。文庫本で4~5冊の分量を持つ長大な作品。私はかなり昔の「河出書房世界文学全集」で一か月かけて読んだ。

全くもってすごい小説だ。ヒロイン、スカーレットと相手役のレットという強烈なキャラクターを中心に置いて、南北戦争を挟んだアメリカ南部の激動の時代を見事に描いている。物語自体はあの映画とほとんど違いはなく、映画がどれだけ完璧な映像化であるかということを改めて思い知らされて驚かされる。

映画では一部の登場人物が整理されている点が目を引く小説との違いで、映画には登場しないスカーレットの息子と娘や、タラの土地を管理する青年ウィルなどが映画版では割愛されているのだが、それよりも大きな違いは、小説では映画以上に南北戦争での敗戦で南部が受けた影響の大きさが細かく語られていることである。映画では今一つ伝わりにくい南部と北部の相克が伝わるし、奴隷制のあった南部のほうがよほど黒人に寛容だったという意外な事実が浮かび上がるエピソードもあり、黒人に対する北部と南部のスタンスの違いなどが明確に描かれている。KKKについてもその成立の理由が奴隷解放によってつけあがって狼藉を働くチンピラのような黒人を北部政府が取り締まらなかったためとされている。どこまで事実なのかはよくわからないが、実際そういう一面はあったのだろう。

映画を見た印象で、この作品はスカーレットという女性を主人公に据えた一種の教養小説的なものなのだろうと想像していたのだが、もちろんその要素はあるのだけど、どちらかというと歴史小説・戦争小説的な要素が強いと思う。南北戦争の推移がきめ細かく描かれ、それに伴って市井の人々がどんな状況に置かれたかを語ってきわめて現代的な作品だと思う。

これほどの小説を30歳前後の若い、しかも小説など書いたこともない女性が書いてしまったというのは本当に驚くべきことだ。作者のミッチェルは新聞記事などを書いてはいたが、怪我をして外出がままならなくなった時にこの作品を、それも断片的に書き始め、7年ほどかけて完成したそうなのだが、きわめて長大ながら緊密に書かれた作品であり、一読すると上のような形で書かれたものとはにわかには信じられない。

現在ではこの小説が、『奴隷制を肯定的に描いている』とされて問題視する人もいるらしい。しかしこの作品はそういう価値観の時代の人々の視点で書かれているのだからそういう風に書く以外にない。最近はポリコレとかいってやたらにそういう「平等」を押し付けてくる人たちが多いが、過去の価値観を否定することは人類史そのものを否定することだと思う。