雪国 Snow Country

先日NHK-BSで放送された、川端康成の名作小説「雪国」を高橋一生奈緒主演でドラマ化した映像作品。

「雪国」は川端の作品としては「伊豆の踊子」に次ぐような回数で、何度となく映画やドラマで映像化されているのだが、どれも全く観たことがなかった。「伊豆の踊子」が吉永小百合の決定版的な映画があるのに比べると「雪国」は過去の映像作品になかなか決定版的な評価のものがないように思う。それは「雪国」という作品が「伊豆の踊子」に比べると文学作品としてかなり理解しにくいものであるからだろうとは簡単に想像できる。

実はこのドラマを観終わってさっそく「雪国」の文庫本を引っ張り出して読んでみたのだが、この小説、特に若い人などはドラマの印象がなければぱっと理解できないような部分も多いように思う。いやどんなに読んでも、駒子と葉子の関係性がよくわからない。わからなくて当然だ。川端が書いてないのだから。だが映像化ではそうはいかない。台詞などで説明的に述べる必要はないが、この二人の関係性をはっきり設定していないと映像作品として成り立たないのだ。

今回は葉子を森田望智さんという女優さんが演じている。この人はNETFLIXの「全裸監督」で話題になった人なのだが、素朴な感じの幼な顔の女優さんなので、小説の、どちらかというとシャープな印象のある葉子のイメージには程遠いと(個人的には)思う。そのせいだろうか、このドラマでは、どちらかというと駒子が葉子に対して強い立場であるように見えてしまう。

「雪国」という作品で語り手の島村は3度ほどこの雪国の町を訪れ、回想されるだけの一度目は初夏、冒頭部分からの二回目は冬、最後は晩秋なのだが、このドラマではすべて島村の心象風景としての雪景色の中で進められる。これは思い切ったアイディアだと思うが物語の静謐さと響きあっていい味が出ている。高橋一生は無為徒食で本質的に空虚な島村を見事に演じていた。奈緒は確か「半分、青い」に出てたと思うのだが、あまり印象のなかった女優さん。しかし今回はちょっとエキセントリックなところもある駒子を魅力的に演じていた。

ラストのほう、繭蔵が火事になったところで、まるで謎解きのように駒子の過去が語られるシーンがある。これは小説「雪国」としてみたら正直言って全くの蛇足だが、映像作品としては分かりやすいかもしれない。でもこれだけ説明的なシーンを加えても駒子が島村に「いい女」だと言われてキレるなどディティールの謎には迫れない。

そしてラストで天の川が島村の心に落ちてくる、あの印象的なシーンが映像化されていないのが残念。

冒頭の有名な「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった」が列車の中でないのも気になったのだが、冒頭で「こっきょう」と読んでラストで同じセリフを「くにざかい」と読んだ意図はなんだろう。