スタニスワフ・レム インヴィンシブル

国書刊行会の「スタニスワフ・レム・コレクション」第2期の最初の配本は飯田規和氏の翻訳で「砂漠の惑星」としてハヤカワから出ていた作品の新訳版。

宇宙巡航艦インヴィンシブルは、かつて同型艦コンドルが消息を絶ったレギス第3惑星を訪れる。そこで異形の「敵」と遭遇したインヴィンシブルだが、多数の犠牲者を出してしまう…という、もちろん旧訳「砂漠の惑星」と同じ話なのだが、登場人物の名前が英語圏をはじめ各国の読み方になっている点がまず大きな違い。主人公はロハンからロアンに、艦長はホルパフからホーパックに変わっている。他ではレニヤルがレグナー、テルネルがターナーといった具合だ。この結果、より「スタートレック」的なインターナショナルな雰囲気が出た。もっともその分東洋系、アフリカ系の名前が見当たらない事と女性がいない事がいっそう気になることになってしまった感はあるが…

また旧訳では単に「ロボット」と書かれていたのが「アルクタン」に変更されている。これは先日芝田文乃さんが書いていらっしゃったのだが原文、ロシア語版とも「アルクタン」というレム一流の造語だったのを、旧訳ではロシア語から日本語に翻訳する際にわかりやすい「ロボット」にしたのだろうということだ。確かにわかりやすくはあるが、これではレムっぽさは吹っ飛んでしまう。

というわけで大変読みやすく現代的になって好感の持てる新訳だと思う。旧訳で問題だったヤルグとテルネルが二回被害に遭ったように思える描写も直されている。

今回読んで、ラストの方でロアンが行方不明者の捜索をする場面で、ストルガツキーの傑作「ストーカー」の幕切れ、「黄金の玉」を探すレッド・シュハルトを連想した。ほとんど徒労と思われる探索をするロアンと、願いが叶うという「黄金の玉」にあらゆる犠牲を払っても迫るレッドに不思議と共通点を感じる。 大局では負けることがはっきりしていている時でも、目の前の小さな勝利に全力を尽くさないといけない時が、人生にはあるのだ。