ネイサン・ローウェル 大航宙時代-星海への旅立ち-

企業惑星ネリスに住み大学進学を控えた青年イシュメールだったが二人暮らしの母がある日突然事故死してしまう。母の扶養家族として住んでいたネリスを出なければいけなくなり、仕方なく船員として貨物宇宙船ロイス・マッケンドリック号に乗ることになる。

これってスペースオペラって言っていいのだろうか?普通SFと言うと、ほとんどの場合戦争をやってるかファーストコンタクトとかで宇宙生物の生態や宇宙人社会の驚異について語るものだが、この作品にはそういうものは全く出てこない。地球人が多くの星系に移民した時代の貿易船を舞台に、主人公が船員として成長し、個人貿易の才を発揮し出すという何とも平和な話だ。 個人貿易というのは各船員に許可された私物の重量の範囲で寄港地で買付したものを先の寄港地で販売して儲けるというもので、要は宇宙を舞台にした転売屋のお話。

しかしよく考えると、最初の星から次の星まで一ヶ月くらいで到着するわけで、それなら今欧米に船便で物を輸出するのと大差ない。相互の特産品の交易も盛んなはず。そこに個人輸入で持ちこんでも、関税や輸送料がかからない程度のメリットしかない。そういえば関税に関することは作中では説明されていない。普通なら寄港地ごとに細かい関税の規則や持ち込み禁止の品物のリストとかがありそうなものだが、そういったものはなく、個人貿易については船員の私物として目こぼしされているとしか考えられない。個人の自由にできる重量枠(10kg)が、船の巨大なキャパシティから考えれば驚くほど小さいのはそういう事なのだろう。

でも「ロイス・マッケンドリック商業組合」という組織として活動するのなら関税を逃れられないようにも思う。全体にそんなにうまくいくわけないやん。というのが正直な感想かな(笑)。まあそれでも斬新な切り口のSF小説ではある。

それにしてもなによこの邦題。全く内容と違うではないか。ちなみに原題は「Quarter Share」「四分の一人前」の意味だ(作中では「四半株」と訳されている)。ついでにカヴァー画も全く内容を反映していない。 早川書房最近こういうの多くないか?

ちなみに米国では続編が「Harf Share」「Full Shere」…と何作も出てるらしいが邦訳はストップしたまま。うーん続き、読まなくてもいいかなあ…