ブルックナー 交響曲第1番

ブルックナー 交響曲第1番 ハ短調

作曲:初稿1966年、1968年初演 改訂:1877年 改稿:1891年

交響曲第1番は1866年に作曲され、1877年に最初の小規模な改訂を受けている。これが一般的に「リンツ稿」と呼ばれるもので、その後、初稿の作曲から25年も経った1891年、第8交響曲の作曲の直後に大幅な改稿を受け、これが「ウィーン稿」と呼ばれるものである。

戦前、1935年ごろに全集の「ハース版」が出版される以前は「ウィーン稿」のみが知られていてほとんど演奏される機会がなかったが、ハース版で「リンツ稿」が知られるようになってからは演奏されることが増えたようだ。

ブルックナーは1877年ごろにそれまで作曲した4つの交響曲(第1~第4番)を大幅に改訂・改稿しているが、第2、第3、第4がかなり大幅な改稿に至っているの比べ、この作品はその時点ではさほど大きな変更が加えられていない。「第4」の改稿の状況などを見ると無駄な音を整理してシンプルな音楽に仕上げた傾向が強いので、もともと簡潔に書かれていた「第1」にさほど手を入れる必要を感じなかったのかもしれない。ブルックナー自身はこの曲を「生意気な小娘」と呼んで愛していたらしい。

ところが晩年、第8交響曲の作曲後に何を思ったのか全面改稿。結果出来上がったのが「ウィーン稿」なのだが、これは「リンツ稿」の簡潔な音楽に「第8」や「第9」にみられる晩年の重厚な様式を上塗りしたもので、あたかも『昔愛した「生意気な小娘」と20年ぶりに再会したら「厚化粧のおばさん」になっていた』的な残念な作品になってしまっている。実際「ウィーン稿」を演奏する指揮者はさほど多くなく、私が聴いた中ではヴァントとネルソンズくらいだろうか。というかなぜこの二人がこちらを選んだのか全く解せない。チェリビダッケはこの曲を演奏していないが、「グロテスクな曲」と評して嫌っていたらしい。多分若いころに触れた「ウィーン稿」でそう思ってしまったんだろうなあ。まあ彼が演奏していてもあんまりスタイル的には似合わないとは思うけど…

CDを選ぶときはまず「ウィーン稿」は避けること。とはいっても上にも書いたように「ウィーン稿」のほうが圧倒的に入手困難だけど。お薦めは手に入り安い物で言うと定番のヨッフムドレスデン・シュターツカペレ。スカッと晴れ渡るような終楽章が爽快。私の愛聴盤は最近は入手困難になってしまったけどサヴァリッシュバイエルン国立管弦楽団。これはすべてに自然な流れの名演。ジャケットには「1866年版」と書いてあるが実際は1877年版のようだ。