ウエスト・サイド・ストーリー

あの名作映画「ウエストサイド物語」をスピルバーグがリメイクした作品。

旧作は私が大好きな映画で、「冒険者たち」などと並んでこれまで見た映画の中で最も好きな映画のひとつである。当然そうなるとリメイク作に対する評価は辛くなるわけだが、しかしこれは良かった。バーンスタインの音楽とキレのあるダンスにシャープな映像がマッチして素晴らしい。旧作が好きな人もぜひ見てほしい。ここでは旧作との異動など書いていこうかと思う(ここでは1961年の映画を「旧作」、ブロードウェイのオリジナルスコアを「オリジナル」と表記する)。

異動ポイントはいくつかあるのだが、まず冒頭で主人公たちの住む区画が、都市計画で数年のうちに取り壊される予定で、すでに取り壊しが始まっているという設定になっていることが説明されて始まる。トニーはドクの店で働いているがドクはすでに亡くなっていて店は夫人のヴァレンティナが経営している。トニーは以前けんかで相手を「危うく殺しそう」になって一年間服役した過去があり、ヴァレンティナの庇護下で更生を目指している。ヴァレンティナはプエルトリコ系で、シャークスからもジェッツからも一目置かれる存在である。ベルナルドはボクサーという設定。これはジェッツとの決闘で「素手」を選択する事と矛盾する設定だと思う。キーパーソンながら旧作では影の薄かったチノはシャークスのメンバーではなく、プエルトリコ系でありながら夜学に通うインテリ。マリアの結婚相手としてベルナルドから期待され、シャークスには加わらせてもらえない。

ダンスでマリアとトニーが出会って恋に落ちるのは従来通り。旧作ではトニーがマリアの働く縫製店を訪れるが、今回は出会った翌日昼間に二人で電車に乗って出かける。このため旧作にはあったマリアとトニーが会っているところをアニタが目撃するシーンがない。

音楽は多少のアレンジが施されているがほぼオリジナル通り。曲の登場順が旧作映画ともオリジナルとも違うように思うが、演奏されなかった曲はなかったと思う。「Maria」は20世紀に作曲された歌の中で最も美しいものの一つだと思っているのだが、ここでは残念ながら旧作やオリジナルスコアでバーンスタインが指揮したCDでホセ・カレラスが歌ったものには及ばなかった。「Gee,Officer Krupke」はかなり大幅にアレンジされていた。「America」は旧作と同じ男性も歌うバージョン。ちなみにオリジナルは女性だけで歌う。「Somewhere」はオリジナルではラジオから聴こえてくるのだが、ここではリタ・モレノが歌う。「A Boy Like That~I Have A Love」の流れは緊張感も説得力も旧作よりも上のように思った。

終盤マリアに頼まれてトニーに伝言を届けに来たアニタがジェッツに暴行を受けそうになるシーンがあるが、ここではジェッツの女の子たちがアニタを庇おうとするのが印象的。ラストも旧作とほぼ同じなのだが、マリアが銃を手に「何人殺せるの?」という悲痛なシーンで、回りにチノとジェッツとシャークス各数名しかいないのが残念。ここは差別を助長していたとも思える警官たちもいるべきだと思う。人数が少ないのでトニーの亡骸を抱えようとして2つのチームが助け合うシーンが目立たなかった。

まあそういうのは細かいことで、オリジナルに現代的な要素を加えた切れのいいダンス、美しく精細な映像からマリア役のレイチェル・セグラーのキュートさまで、すべて素晴らしい作品に仕上がっていて、大好きな映画のリメイクながら高得点をあげたい。

今観ても全く古くない。そして旧作も含めて、いまだに現代人が観なくてはいけない作品だと思う。しかしそれは、この作品が抱えている問題が、60年という年月が過ぎても人類にとって変わらず問題であり続けているからでもあるのだ。