チゴズィエ・オビオマ ぼくらが漁師だったころ

舞台は1996年。主人公はナイジェリアの小さな町に住む6人兄弟の4番目ベン。3人の兄イケンナ、ポジェ、オベンベと一緒にいたずらをしては父や母にお仕置きをされながらも楽しく暮らしていた。ある日禁じられていた川で釣りをしたことがばれて父に手痛い折檻を受けたのだが、その折に父に「お前たちはどぶ川の漁師なんでなく、精神の漁師となってもっと高いところを目指せ」と諭されるのだが、それ以前のある日、近所に住む狂人で予知能力があると噂されるアブルに、長兄イケンナが「漁師」に殺されると予言されていたことから兄弟たちの運命が狂い始める。イケンナは父の言う「漁師」すなわち弟の誰かが自分を殺すと思い込んでしまったのだ。弟たちを拒絶するイケンナと次兄ポジェの間にいつの間にか大きな溝ができていく…

この兄弟たちの運命とナイジェリアの当時の社会状況(ナイジェリアはその数年前から政情不安で内戦に近い状況だった時期もあったり、また1996年はアトランタオリンピックのサッカーでナイジェリアが優勝した年でもある)がリンクする。そこに現代の文明社会が入り込みながらも昔ながらの呪術的な価値観が根強いアフリカの現状が見事に織り込まれた現代アフリカ文学の傑作。作中アチェベの名作「崩れゆく絆」に言及する部分があるが、あれがリアリズムに徹した作品だったのに対し、この作品はリアリズムでありながら、今もアフリカの人々の心に根強く残る、チュツオーラの作品で描かれるような世界を自然と受け入れる迷信深い心をも描きとってしまう。そのギャップが非常に興味深い。

ついついナイジェリアの近代史についてググってみたけど、こんな作品に触れでもしなければナイジェリアの近代史なんて知るはずもない。海外文学を読むと言うのは世界への知見を広げるのにうってつけだ。

原題は「The Fishermen」。読んでる途中はこの邦題違うやろと思ったけど、最後まで読んだらこの邦題がぴったりきた。