ジョージ・R・R・マーティン 「七王国の騎士」

HBOのTVドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」(原作は「氷と炎の歌」シリーズ)の100年ほど前、ウェスタロスの七王国を舞台に草臥の騎士ダンクとその従者で実は王家の生まれの少年エッグが旅先でさまざまな事件に遭遇するという中編3作を収めた作品集。第1作「草臥しの騎士」ではダンクとエッグの出会いと、それによって巻き起こる国全体を巻きむ一大トラブルの顛末が描かれ、第2作「誓約の剣」では地方貴族同志のトラブルに巻き込まれたダンクは、相手方の若い女主人に淡い恋心を抱いたりする。第3作「謎の騎士」では槍試合に出場しようとある城にやってきたダンクが国家転覆をはかる陰謀に巻き込まれる。

いやこれ小説としては、視点がころころ変わって正直非常に読みにくいオリジナルの「炎と氷の歌」シリーズよりずっと読みやすく面白い。(実は第1巻「七王国の玉座」を持っているのだがあまりの読みにくさに途中で放り出してる笑)あっちよりも全体のトーンが明るくて読みやすいし、エッグが実はターガリエン家の王子なので最悪のピンチの時にはターガリエン家の指輪を持ち出すというのも、われわれ日本人には「水戸黄門」でおなじみのパターンで親しみがわく。

ラニスターやバラシオン、タイレルといった名家の名前も登場、「ゲースロ」や「ハウス・オブ・ドラゴン」を観た人なら作品世界が広がって楽しいし、それらの作品を全く観ていない人でも単純に中世騎士物語として楽しめると思う。

ドラゴンとかホワイトウォーカーが全く出てこないから地味ではあるけど、「ハウス・オブ・ドラゴン」よりこっちの方がドラマ化したら良さそうな気がする。特に第1作と第3作はかなり多数の人物が登場し、その多くが騎士なので、ビジュアル的に見分けがついたほうが物語が理解しやすそうな気がする。

しかし作者はこのシリーズを全部で10作くらい書く予定なんだそうだが、ここに収められた第3作を書いたのが2010年。それからは新作が書かれていない。この作者って1948年生れなのでもう70歳代なかば。第5作で止まったままの「氷と炎の歌」もそうだが完成できるのだろうか?