シン・ウルトラマン

エヴァンゲリオン」の庵野秀明による話題の映画「シン・ウルトラマン」を観てきた。

日本に次々と禍威獣と呼称される巨大生物が出現、政府は禍威獣対策のための専任機関機関、禍威獣特設対策室、通称「禍特対カトクタイ」を組織してこれに対処していたが、ある日出現した禍威獣ネロンガに手を焼いていると突如宇宙から飛来した銀色の巨人がネロンガを倒してしまう。続いて出現したパゴラを倒したことでこの巨人ウルトラマンは人類の味方だと思われたのだが、外星人ザラブが出現、高度な科学技術の供与と引き換えにウルトラマンを抹殺するよう政府に交渉を持ちかける。

にせウルトラマンが登場、女性隊員が巨大化、ゼットンゾフィーの登場など随所でオリジナルのTVシリーズに出てきたエピソードをなぞりながらウルトラマンの物語を現代風にアップデートして見せている。禍威獣は生物ともロボットともつかないイメージでどれもどことなくエヴァンゲリオン使徒っぽい。戦いもCGで描かれて冷やっこい。

後半外星人メフィラスが現れ、ウルトラマンの力の源であるベータシステムを人類に供与すると言い出す。このシステムを使えば人類ひとりひとりをウルトラマンと同等の力の持ち主にできるのだ。ベータシステムの供与を防ぐために禍特対の面々とウルトラマンは奔走することになるのだが、これはなんだか今ネットでよく言われる日本の核武装論とよく似ている。でもザラブもメフィラスもベータシステムを持っているからこそウルトラマンと対等に戦えたわけで、いまさら人類が持つ持たんとか言う話ではなさそうな気がする。メフィラスとの戦いのあとゾーフィが現れ、人類がベータシステムを持つと危険だから太陽系ごと破壊すると言い出して最終兵器ゼットンを放つのだが、禍特対ウルトラマンはこれに対処できるのか、という話の流れになる。

ゼットンの弱点を見つけるためにウルトラマン禍特対のメンバーにベータシステムの基礎になるデータを開示し、これを世界中の英知を集めて解析するのだが、これはベータシステムのデータが世界中に流出したのでは?そもそもゾーフィの干渉をはねのけるためにメフィラスが言うようにベータシステムが必要だったのでは?ゾーフィの言うとおりここでゼットンを排除できても今後次々に外星人が人類を襲うのではないのか?

そしてベータシステムを得た人類はどう変容するのか。そのへんもなにもわからない、示唆もしないまま、ウルトラマンは力を失ったと思えるラストで終演。

この春からのロシアのウクライナ侵略を根拠に日本も核武装すべき、という声はよく聞く。この映画の製作中はまだロシアの暴挙は起こっていなかったのだが、日本の核武装論を下敷きにしたシナリオであることは明白で、でもこの映画、では日本はどうするべきなのかという態度がはっきりしないなあと、まあ映画でそんな微妙な政治的なことをはっきり言うわけにもいかんのかなあと、そんなことを思った