ショーン・タン 遠い国から来た話

今年は延べ一ヶ月にもわたる入院があって、その間ほぼ一日一冊くらい読んだし、トータルではかなり本を読んだ。このブログで記事にしただけで50冊。記事にしてないものもある(実は今月もタブッキを二冊再読した)し、それなりに感銘を受けた作品もあったのだけど、最後にこれで全部吹っ飛んだ。今年読んだ本の中でまぎれもないベストワンだ。

孫にクリスマスプレゼントは本と決めていて、プレゼントの本を探しに本屋さんの児童書コーナーで見つけたのがこの作家の「エリック」というちいさな本。これを読んでちょっと鳥肌がたくつらい感動したので、「エリック」のオリジナルも収められているという「遠い国から来た話」も買ってしまったのだ。

作者エリック・タンはオーストラリアの作家。細密なエッチングを思わせるモノクロのペン画から油彩らしき絵、書き文字を使ったコラージュまでかなり表現方法は幅広い。またアニメなども手掛けるのだそうだ。アカデミー賞を取ったこともあるらしい。

これは子供向きの絵本ではない。挿絵がたくさんあるひねりのきいた短編集といった趣だ。「エリック」もそうだけど、細かい内容としては正直よくわからない話が多い。だがこの人の作品はそういう捉え方で読むのではなく、わからないままでいいからありのままで受け入れて読むべきだと思う。はっきり言ってどの作品にもカタルシスも教訓もない。いや結末すらないような作品さえある。だがそこにはなぜか人生の真実が見え隠れしているように思う。

いくつか紹介しておく。「壊れたおもちゃ」謎の潜水服男が現れ、「ぼく」と兄さんは彼を意地悪なミセス・カタヤマの家に連れていく。オーストラリアには昔真珠採りの仕事をする日系人が多かったらしく、その辺の歴史も踏まえて読むとまた違う印象が出てくるちょっと深い作品。

「お祖父さんのお話」。お祖父さんはお祖母さんと結婚するために、リストを渡され、これに載っているものを探してこいと言われて旅に出る。苦難の末にリストに載っているものをほとんど見つけるのだが、あと二つがどうしても見つからない。あきらめかけた二人の間に険悪な空気が流れるが…というお話。この作品集中では一番「お話」らしい「お話」だと思う。挿画も一番充実した作品。

「棒人間たち」、「備えあれば」はなんだか不安になる作品。現代文明への警鐘というと大げさだが…

というわけで、これは大人にも子供にもぜひ読んでほしい本だ。ショーン・タン、ほかの作品も読みたい。